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首椿  作者: 真崎いみ
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第42話

大学の見学を終えて一足早く、健は家路に着くことにした。

バス停まで珠子とさやかに見送られ、来たバスに乗り込む。まだ昼間だからか、乗客は健だけだった。

珠子の日常を垣間見て、彼女の世界の一部に触れた気がした。健は満足感に満ちて束の間、瞼を閉じるのだった。


「ううー、寒ぅー…。」

珠子が大学の授業を終えて、アパートに帰るころにはすでに日が暮れていた。さやかは窯炊きがあるというので、大学で別れた。

寒さ故、マフラーに顔の半分を埋めながら歩く足は自然と早くなる。前までなら寒くて暗い部屋に帰るだけだったので味気ないものそのものだったが、今は健がいる。それだけで、身も心も軽く弾むようだった。

「…、」

自然と鼻歌を口ずさんでいた。だからだろうか、自分の足音が一つ多いことに気が付かなかった。

「ただいまー。」

「おかえり、たまちゃん。」

健には合鍵を渡してあった。その鍵を使えば、外出も好きにできる。

「もうすぐ、ごはんできるよ。手を洗っておいで。」

健は鍵を駆使して夕食の買い出しに行って、さらに料理を作って待っていてくれた。

「嬉しいー。人がいるっていいねえ。」

靴を脱ぎ捨てて、珠子は洗面台へと向かう。石鹸で手を洗い、居間に行くとふわりとカレーの香りが鼻孔を抜けた。

「今夜はカレーですよ。」

台所に立つ健が告げた。コトコトと具材が煮込まれる軽やかな音が響く。

「…。」

「ん?カレー、嫌いだった?」

濡れた手を拭きながら健が心配そうに、珠子の顔を覗き込んだ。

「んーん。ごめん、ちょっと思い出に浸ってた。」

祖母が言う「今夜はカレー」の言葉が大好きだった、と珠子は話す。

「懐かしいなって、思った。」

「そっか。嫌いじゃないなら、よかった。さー、食べよ。」

お米の量はどのぐらい、と問われ、珠子は迷わず大盛りを宣言するのだった。

「カレーって残っても、色んな料理にアレンジが利くから良いよね。」

珠子によそったカレーを手渡しながら、健が言う。

「え?今日、食べきるけど。」

「…うん。頼もしいね。」

「何よー。健だって食べるじゃんよー。」

「問題は成人男性と同量を食べるってことかな。」

和やかな夕食を終えて、食後のお茶を二人で啜っているとき。不意に、部屋が真っ暗になった。電灯はおろか、テレビ、エアコン、加湿器などの電気を使うものなどが全て活動を止めた。

「え、何何?」

珠子が驚いたように、声を上げる。

「…。」

健は立ち上がり、窓サッシを出てベランダに立って辺りを見渡した。

「停電みたいだ。」

おいで、と誘われて、健の横に立つと町全体が暗闇に包まれていた。

「うわ、真っ暗だね。」

「うん。」

光源が月の明かりだけになった町は、しんとして静かでまるで世界が終わったかのようだった。

「あ、慌てて出てきた人がいるね。」

健の言葉に下を見ると、懐中電灯を片手に右往左往する人がいた。車に轢かれないよう、願うばかりだ。

「この寒いのに、電気が止まったら大変じゃん。…あ。」

珠子は踵を返して、こたつを確認する。もちろん電気が途絶えて、熱が失われつつあった。

「ダメそう?」

室内に戻ってきた健も腰をかがめて、珠子に問う。

「ダメそう。」

「そうかー…。」

健はこたつの上に残った湯呑から、お茶を飲む。

「えー、随分と余裕だけど…暖房一切無いよ?」

もうすでに若干の寒さを覚えた珠子は腕をさすりながら言った。

「一緒に布団に包まろうか。」

健は両手を広げて、珠子を待つ。

「ん?」

「…いいけどさあ。その余裕がムカつく。」

珠子はやれやれと言いながら、健の腕の中に納まった。

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