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首椿  作者: 真崎いみ
34/68

第34話

神社に参道には屋台が並び、二年詣りに訪れた人々で込み合っていた。今年を無事に終わる喜びと、新年を迎える希望に満ちていた。

人の隙間を縫うように、健と珠子は境内へと向かう。境内では、巫女さんが参拝客の体を温める間酒を振る舞っていた。その中の一人に、さやかがいた。彼女の姿を見つけた珠子が嬉しそうに、さやかの元へと急ぐ。

「さやかー。」

「あ、珠子。来てくれたんだね!」

緋色の袴を翻して、さやかは甘酒を二つお盆に乗せて持ってきてくれた。

「はい、どうぞー。あ、宮野さんも。」

「どうも、ありがとう。」

白い紙コップに並々と注がれた甘酒は、芳醇な香りが湯気と共に立っていた。珠子は嬉しそうに、ふうふうと息を吹きかけながら早速飲んでいる。健はビニール袋を腕に引っかけてから、紙コップを受け取った。

「それ、全部お菓子ですか?」

健の荷物に気が付いたさやかが、首を横に傾けながら問う。

「うん?ああ、そうなんだよ。たまちゃ、」

名前を出される前に、珠子は健のわき腹へ肘鉄を食らって黙らせた。

「健、甘党らしくてねー。コンビニでわがまま言うのよ。」

「…の割には、チョイスが珠子好みだけど。」

「何か?」

珠子の笑っていない目を見て、何かを察したさやかは慌てて話題を反らす。素晴らしい防衛本能だと思う。

「私の巫女姿を見て、どう?なかなか様になってるでしょ。」

そう言うと、くるりと全身を見せつけるようにさやかは回転した。

「馬子にも衣装。」

「甘酒返せ。」

飲みかけの甘酒を取り上げようとするさやかから逃げて、珠子は健の背中に隠れる。

「宮野さんはどう思います?」

矛先を向けられて、健はまじまじとさやかを見た。

「もっと着物に着られている感があるかと思ったけど、似合ってると思う。」

実際、童顔のさやかに巫女衣装はより清楚な感じを醸し出していた。

「宮野さんは見る目がありますねー。おかわりはいかがですか?」

「健の裏切り者!」

珠子が悲鳴のような声を上げる。

「何だよー。そんなに甘酒好きなん?」

「たまちゃん。」

健がちょいちょいとさやかを指差す。

「ん?」

「…珠子、いっそ清々しいわ。」

こめかみに怒りマークを浮かばせながら、さやかは腕を組んで珠子に圧をかけた。

「あー、えーと。着物、似合ってるゾ!」

「…たまちゃん。」

わざとらしく間に合わせの誉め言葉に、健があちゃーと額に手を当て天を仰ぐ。そして言い聞かせるように珠子の目線に合わせて、猫背になる。

「こういうときはもっとスマートにゴマをすらないと、逆効果だよ。」

「伏兵がいやがる!?」

さやかが健の寝返りを見て、驚きに目を見張った。

「健、逃げるぞ。」

「おう。」

職場を離れるわけにはいかないさやかを置いて、二人は駆けだした。背後でさやかが猫のように怒っている声が聞こえ、珠子と健は笑いを堪えることができなかった

「たまちゃん、あまりからかうと可哀そうだよ。」

「健もね。あーあ、次に会ったら何て言って謝ろうかな。」

くすくすと顔を見合わせて、落ち着くとようやく周囲を見渡した。いつの間にか人通りを抜けて、神社の裏にある蔵の前まで来ていた。

葉を落とした木々の枝が幾重にもなり影を色濃く地面に描き、枯れた雑草が寂しく風に揺れている。無言で建つ蔵はどこか威圧感を放ち、来るものを拒絶していた。

しんとして静かで、まるで別世界のようだった。

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