プロローグ
「……やっと、王都に帰ってきたな」
淡い風が頬を撫でる。騒がしかった旅路を思えば、この静けさが少しだけ不思議に感じられた。
「静かですね、イッセイ様」
背後から声をかけてきたのはクラリス。王都のバルコニーに並んで立つ。夕暮れの光に照らされて、横顔が優しく揺れていた。
「うん。……だからこそ、今のうちに、みんなと話しておきたくてな」
「……ふふ、それって、“個別面談”ですか?」
「違う、断じて違う!」
「冗談ですわ。けれど、きっと皆、嬉しいと思います」
王都の街が柔らかな金色に染まっていく。
それぞれが自分の時間を過ごし、静かな休息を得る――それが許された、貴重なひととき。
(……この旅で、どれだけ救われてきたんだろうな、俺)
ひとりひとりの顔が脳裏に浮かぶ。笑顔、不安、涙、誓い、そして――伝えきれなかった想い。
「よし……全員と、ちゃんと話そう。言葉にして、伝えなきゃならないことが、ある」
そして、それぞれの扉が静かに開かれていく。
これは、冒険の合間に芽吹いた、小さな恋の幕間。
想いは、音もなく、そっと重なろうとしていた。




