魔法の師匠と、新たな挑戦
「……で、私はまた教える羽目になったってわけね」
「お願いメルティ先生。もう一段階、ステップアップしたくて」
朝の中庭。鳥のさえずりと風に揺れる木々の中、僕はいつもの訓練服姿。
目の前でため息をついているのは、魔法の家庭教師・メルティ先生。
見た目は相変わらず若々しくて、魔法の杖よりもチョークのほうが似合いそうな雰囲気。
「ほんっと、教え甲斐ある生徒だわ。真面目で飲み込み早いし……あんまり褒めすぎると調子乗りそうだからこのくらいにしとくけど」
「ほらやっぱり褒めてる」
「はいはい、じゃあ今日は“詠唱短縮”と“魔力変換”の応用をやるわよ〜。覚悟しなさい」
こうして僕の、次なるステップが始まった。
* * *
「イッセイくん、魔法の集中はまず呼吸からよ〜。魔力の流れを意識して、深く、ゆっくり吸って……吐いて」
「ふーっ……」
「で、これが魔力変換用の杖ね。慣れれば杖なしでもできるけど、まずはツールに頼るのが基本!」
「了解です、先生!」
「じゃあ《フレイムショット》、フルチャージで撃ってみなさい!」
「《フレイムショット》――発射っ!」
ドンッ!
遠くの木製標的が吹っ飛ぶ。命中精度も威力も上々。
「おぉ……前よりずっと滑らかになってる。魔力の流れが自然だな」
「ふふっ、やるわね! でもまだ中級魔法には届かないわよ〜。次は連続詠唱よ!」
「連続詠唱……!? そんなスパルタなんですか先生!」
「ええ。期待してるからよ、イッセイ君」
「……はいっ、頑張ります!」
(くっ、全然手加減がない。でも嬉しい。僕を“弟子”として、本気で鍛えてくれる人がいる。それが……嬉しい)
* * *
屋敷に戻ると、三人娘はそれぞれの時間を過ごしていた。
ミュリルは庭で警備の真似事。木剣を振り回しては猫耳がぴょこぴょこ動いている。
「主さま! 見て見て、剣の練習にゃんっ!」
「うん、腕が少し上がったかな? 今度、本物の剣士と手合わせしてみようか」
「ま、まじでにゃ!? が、頑張るにゃん……!」
フィーナは図書室で本を読んでいた。主に絵本だが、最近は歴史書にも興味を持ち始めたようだ。
「主さま……この本に出てくる、古代魔法って本当にあるウサ?」
「うん、古代魔法は理論だけで再現するのが難しいけど、存在はしてる。いつか一緒に探してみようか」
「う、うれしい……! 約束、ウサ……!」
セリアは廊下の角で誰かにちょっかいをかけようとして――こっそり失敗していた。
「……べ、別に暇だったわけじゃないんだから」
「うん、セリアは見張りしてただけだもんね」
「ちょっとぉ、見てたなら助けなさいよ!」
(ふふ。みんな、それぞれの歩幅でこの屋敷になじんできてる)
* * *
夜――。
書斎で今日の訓練記録を書きながら、僕はふと思う。
(強くなるって、戦う力だけじゃない。誰かを支えたり、導いたりできる器のことも含まれてる)
僕の周りには、信じてくれる人たちがいる。
教えてくれる人も、共に歩む仲間も――
「さあ、次は……ダンジョン探索の再開かな」
王都近くに新たな未踏ダンジョンが発見されたとの報。
それは、僕たちがさらに先へ進むための“試練”かもしれない。