浮遊諸島へ――空に浮かぶ伝承の地
幾重もの雲が層を成す青空。その彼方に、伝承の地・浮遊諸島が静かに佇んでいた。
「……本当に、浮かんでるんだな」
イッセイが呟くと、そばに立っていたルーナが目を輝かせた。
「見てくださいイッセイくん! あの空に浮かぶ島々、まるで絵本の挿絵そのままウサ!」
「空飛ぶスライムを使えば、わりと簡単に行ける……って言ってたけど、実際に目の前にすると、やっぱり壮観にゃん」
ミュリルが空を見上げ、両手を広げて深呼吸した。王都から南へ進み、雲海の裂け目を越えてようやくたどり着いたこの地には、古くから「聖なる封印が眠る」と言い伝えられていた。
「フィーナ、状況は?」
「風向きと気流は安定してるウサ。スライム搭乗船で浮上しても問題ないウサ」
フィーナは手元の魔導装置を操作しながら、さらなる確認を続けていた。
「でも……何だろう、あの雲の向こう、ちょっと違和感を感じるの。空気が……ざわついてる」
シャルロッテが神妙な面持ちで呟く。彼女の肩に乗った精霊・ユーフォリアがふわりと宙に舞い、同じ方向を見つめた。
「間違いにゃい。あれは“封印のゆらぎ”にゃ。精霊の波動が不安定になってるにゃ」
旅の一行は、浮遊諸島の最下層に位置する「迎えの台座」へとたどり着いた。ここは、空を渡るための古代魔法が封じられた転移装置が眠る場所。石造りの円環が、時の風に風化しながらもなお力を秘めていた。
「この装置で、浮遊諸島の本島まで転移できるらしい。古代エルフの設計だそうだ」
クラリスが古文書を片手に説明する。王家の書庫から持ち出した記録に、浮遊諸島へのルートが記されていたのだ。
「問題は、転移の精度……かな。失敗すれば、空の彼方へ……」
リリィが口を尖らせるが、すぐに笑顔を作った。
「でも、あたしの計算は完璧よ。だって、みんなで来たんだから、絶対大丈夫!」
「みんな、準備はいいか?」
イッセイの問いかけに、全員がうなずいた。その目は、空の先にある“真実”を見据えていた。
やがて転移装置が青白い光を放ち始め、空の道が開かれる。浮遊諸島へ――運命の扉が、今、開かれようとしていた。
「……信じられない。本当に……浮いてるのね……!」
王都から南東へ、魔法装置を備えた船を用いておよそ半日。雲の隙間に、巨大な浮遊島群――通称《天空列島》が姿を現した。
眼前に広がるのは、空に浮かぶ大地。幾重にも重なった小島が、重力を無視して浮かび上がり、金色の陽を反射して輝いている。
「さすがは古代の遺産……魔法文明の極致ってやつか……」
イッセイが感嘆の声を漏らすと、後方からミュリルがぴょこっと顔を覗かせた。
「すごいにゃ……! でも、こんなに高いところに来ると、耳がキーンってなるにゃ……!」
「気圧の影響かしらね。浮遊島の結界が、空気の密度を保ってるけど……自然の法則じゃ説明がつかないわ」
リリィがメモ帳に走り書きをしながら答えると、フィーナが笑顔で指を立てた。
「つまり、浮かんでるのは……ふわふわの魔力ウサ!」
「ふわふわ理論って何よ……」
ルーナが頭を抱えながらも、笑顔は隠せなかった。
そんな中、クラリスが真剣な表情でイッセイの肩に手を添える。
「イッセイ……この島には、聖女リアナの封印と、過去の記録が眠っている可能性が高いわ。私たちがここへ来たのは、偶然じゃない」
「ああ。俺たちの旅は……ここから、また一つの核心に触れる。気を引き締めよう」
操縦士の号令が入り、船は中央の島――《聖域の浮島》と呼ばれる最大の浮遊島に向けて高度を落とし始めた。
だが、その瞬間。
「警戒ッ! 上空から……何か来るッ!」
甲板にいたセリアが鋭く叫ぶ。次の瞬間、空の彼方から黒い影がいくつも降下してきた。翼を持った騎士、魔物のような兵団――そしてその先頭にいたのは、仮面をつけた謎の女だった。
「ようこそ、《封印の墓標》へ……歓迎するわ、“選ばれし者”たち」
その女の声に、ルーナが眉をひそめる。
「まさか、また“あの連中”……」
「闇ギルド、いや――もっと奥にいる者の差し金かもね。ここは早めに潰しておかないと」
リリィが腰の魔導銃を構え、セリアも剣を抜く。
「イッセイ、どうする!」
クラリスが振り返る。イッセイは静かに頷いた。
「迎え撃つ――空の上でも、俺たちは止まらない」
風を切って、魔導船の甲板に第一波の敵が降下してくる。
「ルーナ、援護を! クラリスは後衛から魔法でサポートを!」
「了解、イッセイくん! 行くよ、フィーナ!」
「ふわふわバリア展開ウサ~ッ!」
空の舞台で繰り広げられる戦い。翼を持つ敵に翻弄されつつも、イッセイたちは見事な連携で応戦する。ミュリルの治癒魔法、サーシャの神速の剣、シャルロッテの精霊結界――それぞれが持てる力を発揮し、次第に戦況を有利に傾けていく。
やがて、仮面の女が唇を歪めた。
「……ふふ。思った以上ね。でも、これで終わりだと思わないことね。“彼の眠る場所”で、真実と向き合うがいいわ……」
彼女は爆煙を撒いて退却し、空中に残された部隊も撤退していった。
「……あいつ、ただの使いか」
イッセイが剣を下ろすと、クラリスが静かに呟いた。
「“彼の眠る場所”……?」
「聖女を封じた者。封印を管理していた、もう一人の存在がいるのかも」
シャルロッテの言葉に、誰もが息を呑む。
そして、船は浮遊島の中心――古代神殿のような遺跡へと向かっていく。
「行こう。真実に、触れるために」
次なる一歩を踏み出す仲間たちの瞳には、決意の光が宿っていた。




