エピローグ 神の祈り、旅路の彼方にて
風が柔らかく吹いていた。
神の座の戦いから数日後。イッセイたちは、聖教国・エルヴィラ郊外の小さな村「セント・リュミエール」に身を寄せていた。そこは巡礼者の間では“奇跡が宿る地”と囁かれる、静かな聖域だった。
「ふぁぁ……あったかい……」
ミュリルが日差しの中、縁側で丸くなりながら伸びをする。「にゃんこの天国だにゃん……♪」
小さな祈祷院には、穏やかな鐘の音とハーブの香りが満ちていた。フィーナが中庭の薬草畑で採取したラベンダーを、リリィが試作のアロマオイルに加工している。
「どう? この香り、旅の疲れにも効くウサよ」
「ええ、とても落ち着きますわ……癒しの泉にいるみたい」
リリィとクラリスが並んで座り、笑い合う。
サーシャは離れた木陰で、剣の手入れをしていた。だがその視線は、神殿の白壁に咲く小さな花へと向けられていた。
「武を振るうだけでは、あの場所は守れぬのだな……」
小さく呟いた声に、イッセイがそっと近づく。
「……気づいたんだな」
「……ああ。だからこそ、もっと強くなりたい。誰かの“想い”を守るためにな」
「いい目になったな、サーシャ」
イッセイが微笑むと、彼女はすっと目を細めた。「ぬしの言葉、素直に嬉しいぞ」
一方、シャルロッテは小さな精霊と対話していた。彼女の肩には、光のように淡く揺れる“言葉の粒”が寄り添っていた。
「……やはり、“封印の揺らぎ”は全土に広がりつつある。次の“啓示”は、南方の浮遊諸島……」
「そこに……魔王の影が?」
イッセイが眉を寄せる。
シャルロッテは頷いた。「精霊たちが“囁き”始めたわ。あの島には“時の狭間”があると」
セリアもその話に耳を傾けていた。「浮遊島……聞いたことある。昔、王族しか渡航を許されなかった禁地よ」
「そこに“聖女リアナの魂”が……」
クラリスがぽつりと呟いた。
イッセイは空を見上げる。透き通るような青。けれど、その果てには新たな闇の気配が確かにあった。
「聖女は本当に封印のためだけに命を捧げたのか。――それを、確かめに行こう」
「ウサ! 新しい地図、もう描いたウサよ!」
フィーナが嬉しそうに地図を広げる。
「ふふ。だったら、試作の“軽量泡風呂パック”も持っていかなくちゃですね」
リリィも笑顔で言う。
「にゃんでも来い、だにゃん♪」
ミュリルが剣を腰に、くるっと回って笑う。
「では、改めて確認するぞ」
サーシャが立ち上がり、凛とした声で言った。「次の地は、浮遊諸島《アルフリード群島》。――封印の真実を確かめに」
「うん。行こう、みんなで」
イッセイの言葉と共に、仲間たちは再び立ち上がる。
風が吹く。桜ではないが、空に舞った草花が、静かに次の旅を祝福しているかのようだった。
旅は続く――。
そして、真実の扉は、もうすぐそこに。




