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侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!  作者: のびろう。
第6章 聖なる記憶と千年の封印

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主の代理(ヴォルクス・デウス)

聖女の祈祷塔から戻った一行は、聖堂都市イシュリールの郊外にある、クラリスの知人である隠遁した賢者のもとを訪れていた。


「“ヴォルクス・デウス”? その名を、そなたたちが口にするとはな……」


ローブに身を包んだ老賢者オルセウスが、ひび割れた杯を手にしながら低くうなった。


「その名は、古文書にのみ現れる。“神の意志を継ぐ者”などと訳されることもあるが……実態は、旧神殿派が禁忌とした存在じゃ」


「旧神殿派……つまり、今の聖教会の前身?」


クラリスが身を乗り出した。


「むしろ、聖教会がその存在を覆い隠そうとしてきた勢力だな。リアナの封印が始まる前……ある巫女が、“神に近づきすぎた”ため、禁じられた儀式を行った。――その者の末裔が、“ヴォルクス・デウス”だとされておる」


「それが、今も生きていて……リアナの封印に干渉しようとしてる?」


サーシャの目が鋭く光る。


「恐らく、聖女リアナの記憶と力を利用しようとしているのじゃろう。“再臨”とは、真なる救いではなく、“支配”のためのものじゃ」


老賢者は、床を歩む影に目を落としながら、静かに続けた。


「この国の聖典には、封印の維持には“聖女の魂の純粋性”が必要とある。もし誰かがそこに“異なる力”を注げば……封印は崩壊する」


「つまり、“主の代理”は――リアナの魂を改竄しようとしている……?」


ルーナが唇を噛む。


「にゃにゃ……そんなの、絶対許せないにゃ……!」


ミュリルが小さく拳を握った。


***


その夜。イッセイは、フィーナとシャルロッテと共に、“塔から持ち帰った封印図”を見直していた。


「この紋章……見覚えがあるウサ。魔導学院の奥書庫にあった“旧約の六翼印”と同じ系統……!」


「こっちの碑文……精霊語では“捧げられし魂の扉”と読める。誰かが、リアナ様の魂を通じて、別の“領域”へ通じる鍵にしようとしてる……?」


シャルロッテの声に、緊張が走る。


「まさか……“神界”に干渉しようとしているのか?」


「イッセイくん……それって、“人間には触れてはならない領域”じゃないかな……」


シャルロッテの頬が蒼白になった。


「だが、だからこそ奴らは、リアナの“記憶”を手に入れようとしている。……封印の力を乗っ取り、“神”を模倣することで、世界を――」


イッセイが言葉を詰まらせたとき、扉が勢いよく開かれた。


「――急報です!」


飛び込んできたのは、王都から遣わされた伝令騎士。


「聖都エルヴィラにて、“聖女リアナ再臨”を名乗る者が現れ、民衆を集めております!」


「……! まさか、“主の代理”が……!」


クラリスが顔を強張らせた。


「その者、銀のヴェールに身を包み、顔を見せず、群衆の前で“神の声”を口にしたと……。しかも、瘴気に侵された者を奇跡で癒したという報も!」


「癒しの奇跡……本物の“聖女”を模した、偽りの力……」


リリィが目を伏せた。


「ウサ……やばいウサ……これは、完全に“演出された神”だウサ……!」


「――行くぞ。次は聖都エルヴィラだ」


イッセイが静かに立ち上がる。


「世界が……“真なる聖女”と、“偽りの神”に引き裂かれようとしている。……俺たちが、その真実を見極める」


仲間たちは、静かにうなずいた。


こうして、一行は再び聖都を目指す。


その地で、“神”と“人”を隔てる真実が、暴かれるとは――まだ誰も知らなかった。


聖都エルヴィラは、かつての静謐を失っていた。


聖堂前の広場には民があふれ、中央の祭壇に設えられた簡易の玉座には――白銀のヴェールをかぶった“聖女”が座していた。


「……あれが、再臨を名乗る者か」


イッセイが祭壇の前に立ち、群衆の間を見つめた。隣には、フードをかぶったクラリスが並ぶ。


「彼女は……“奇跡”を起こしたとされている。癒しの光を放ち、盲いた少年に視力を与えたと……。それを見た者たちは、“神の声”を信じるようになった」


クラリスの声に、イッセイは眉をひそめる。


「奇跡の再現は、禁術で可能だ。だがそれを“神の名”で行うなら――それは、冒涜だ」


「イッセイ……!」


群衆の一角で、ミュリルが手を振る。「にゃー!」という声に一瞬、民衆が振り返るも、すぐに再び聖女に視線を戻した。


その瞬間、玉座の“聖女”が、静かに口を開いた。


「……世界は、堕ちていく。だからこそ、神は再び声を届けたのです……。この身に宿る光は、千年の封印より蘇りし聖女・リアナの証――」


「――嘘だな」


その言葉を遮ったのは、イッセイの冷徹な声だった。


「本物のリアナ様は、そんな“救世”を口にする方じゃない。お前は誰だ。“神の名”を語り、何をなそうとしている?」


会場がざわめく。玉座の“聖女”は、わずかに視線を落とし、静かに立ち上がった。


「……なるほど。イッセイ・アークフェルド。お前が、我らが計画を最も脅かす存在か」


ヴェールの下から響いたその声は――明らかに、若い女性のものだった。だがその響きには、異様な冷たさと威圧があった。


「我は《主の代理》ヴァルティア。リアナの記憶と声を継ぎ、次なる“神の座”に座す者なり」


「記憶……を、継いだ?」


シャルロッテが息をのんだ。


「そう。世界の深奥には“神性”が流れている。リアナはそれに触れ、崩れた。そして今、我はその残滓を手に入れた。次は、完全なる覚醒だ」


「“神になる”ってわけか……!」


サーシャが刀に手をかけた。


「止めておけ、武士よ。今、ここで私に刃を向ければ――群衆の前で“神殺し”として汝らは糾弾されよう」


「……くっ」


イッセイは前に出ようとする仲間を制した。


「ならば問う。お前が語る“神”とは何だ。世界を導く意志か、それとも支配の偶像か?」


「どちらでもある。“神”とは人が必要とする希望。そして支配。“秩序”を欲したとき、人は“神”を創り出す。私は――その象徴になる」


「それは“聖女リアナ”が最も忌んだ理だ!」


クラリスが叫んだ。


「彼女は、支配ではなく、癒しと共存の象徴だった。あなたが語る神は、ただの“偶像”よ!」


「……面白い。ならば、お前たちが“本物の奇跡”を示せばいい」


ヴァルティアは笑った。


「三日後。聖都にて“再臨の儀”が執り行われる。“神の座”は空白だ。望むなら、そこに“挑む”がいい。――それが、お前たちの最期になるとしても」


そのまま、彼女は玉座の背後へと姿を消した。


ざわめく群衆。その中に残されたイッセイたちの眼差しは、固く、揺るぎない決意に染まっていた。


「イッセイくん……どうするの?」


「決まってる。三日後、俺たちは“真実”を示す。奇跡でも、偽りでもない――“人の力”で、あの偶像を打ち砕く」


その言葉に、仲間たちは頷いた。


“聖女”の名を騙り、神の座に昇らんとする者がいるなら――


それを止めるのは、彼らしかいなかった。

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