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侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!  作者: のびろう。
第5章 王都の休日

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ミュリル編「猫耳の小さな祈り」

王都の片隅、日差しの差し込む白亜の教会。

その敷地の一角、小さな庭園には花が咲き乱れ、子どもたちの笑い声が響いていた。


「こら、あんまり走ると転ぶにゃんよ〜!」


ミュリルが両手を広げて追いかけると、子どもたちはきゃっきゃと声をあげて逃げる。


「ミュリルおねーちゃん、にゃんって変な喋り方ー!」


「変じゃないにゃん! 可愛いにゃんよ!」


笑い声と追いかけっこ。それは、かつてミュリルが知らなかった、温かな世界だった。


──


数刻前。


「本日からの奉仕活動、よろしくお願いいたします」

神父が頭を下げると、ミュリルはぴしっと姿勢を正した。


「拙者……じゃなかった、ミュリル、心を込めて頑張るにゃん♪」


治癒魔法の心得を持つミュリルは、イッセイの旅に同行する以前、時折こうして教会で奉仕活動を行っていた。

特に子どもたちの世話は得意で、動物のような耳としっぽに彼らはすぐ懐いてしまう。


「ミュリルお姉ちゃん、これ描いたの! 見て!」

「にゃあっ、じょうずにゃんね! お魚さんが泳いでるにゃ!」


絵を褒め、魔法で膝擦り傷を癒し、花壇に水をやり、お昼には一緒にパンを分け合う。


だがその一方、ミュリルの心の奥底には、ほんの少しだけ、過去の影がよぎっていた。


(……拙者も、かつてはこうして誰かに甘えたかったにゃ……)


孤児として路地裏で育ったミュリル。

寒さと飢えと恐れの中で、誰かを頼ることを知らずに育った。

今でも時折、夢に見ることがある――優しく撫でてくれた、名も知らぬ修道女の手のぬくもり。


だからこそ、いま自分がその手になりたいと思う。


「にゃんでもないことでも、そばにいるだけで、元気になれるにゃん……♪」


ミュリルはそう呟いて、小さな子どもの髪を撫でた。


──


夕方。


奉仕活動の終わり、教会の片隅でミュリルは祈っていた。

手を組み、目を閉じて、静かに願う。


「この子たちが、明日も笑っていられますように。拙者たちの旅が、誰かを救うものでありますように」


その姿を、遠くから見守っていたのはイッセイとクラリスだった。


「……ミュリルって、不思議な子よね」

クラリスがぽつりと言う。


「うん。あの耳としっぽだけじゃなくて……すごく繊細で、優しい」


イッセイの言葉に、クラリスはうなずいた。


「彼女の“にゃん語”って、ただの癖じゃないのかも。本当は、誰かに優しくしたい、っていう気持ちの言葉なのよ」


ミュリルが子どもたちに囲まれて、最後の絵本を読み聞かせる。


「――そして、勇気を出した猫ちゃんは、大好きな森を守ったのにゃ♪」


拍手と笑顔。


その中心に、ミュリルの猫耳がふわふわと揺れていた。


イッセイはふと、空を見上げた。

雲間から差し込む夕陽が、優しい色に染まっていた。


「彼女がいるだけで、俺たちも元気になるんだ。……本当に、癒しの力ってすごいな」


小さな手、小さな笑顔、小さな勇気。

それは誰かを救う、大きな光になる。


ミュリルはその日、改めて気づいたのだった。

自分が“いる”ことの意味を。

そして、その優しさが仲間たちを包んでいることを。

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