セリア編「小剣と誓いの研磨」
王都近郊、昼下がりの陽射しが斜めに射し込む訓練場には、剣戟の音が乾いた空気に溶け込んでいた。
「――はっ!」
鋭い掛け声と共に、細身の小剣が風を裂く。
セリアは額に汗を浮かべながらも、凛とした表情を崩さず、次の一太刀へと身体を滑らせた。
「変わらないな、セリア。だが……まだ、甘い」
低く響く声の主は、かつて王都護衛騎士団で教官を務めていた男、ギルバート。
四十代半ばの無骨な男で、かつてセリアに剣の基礎を叩き込んだ恩師だ。
「ギル様こそ、相変わらず老けましたね。腰、大丈夫ですか?」
「はっはっは、相変わらず口が減らんな。だが、その構え……随分と柔らかくなった」
「……はい。あの人のおかげです」
イッセイの姿が、ふと脳裏に浮かぶ。
厳しくもあたたかい視線。背中を預けることのできる安心感。何度も命を救い合ったあの戦い。
「ずっと、あたしは“護られる”ことが当然だと思ってたんです。騎士だからって、誰かの後ろで剣を振るっていればいいって……でも、違いました」
セリアは小剣を構え直す。その眼差しはかつてないほど真っ直ぐだった。
「“自分の力で、大切な人を護る”。その覚悟が、やっと分かった気がします」
ギルバートは頷き、腰の重い長剣を振り上げた。
「ならば、証明してみろ。お前の“誓いの剣”を!」
剣と剣が火花を散らし、再び戦いが始まる。
陽が傾き始めた頃、セリアは両膝に手をつき、荒い息を整えていた。
「ふっ……久しぶりに、本気を出しました……」
「見事だった。だが、甘えるな。お前が背中を任せてる男は、たぶんとんでもない奴だ」
「……ええ、分かってます。だからこそ、私も……もっと強くならなくちゃいけないんです」
夕陽が差し込む訓練場で、セリアは静かに立ち上がる。
その小さな背中に、確かな決意の影が落ちていた。
「行ってきます、ギル様。あの人の隣に、相応しい自分でいられるように」
ギルバートは、何も言わず、背を向けて手を振った。
セリアは一度、深く頭を下げると、王都の方角へと歩き出した。
その歩みは、確かな誓いを胸に秘めた騎士のそれであった。




