護衛任務と、運命の三人
「今日の空、いい感じじゃない? “冒険日和”ってやつだね!」
旅路の途中、青く広がる空を見上げて僕はつぶやいた。
街から東の交易村へ向かう護衛任務。
荷馬車4台に商人と護衛5名、そして僕。
師匠のセリナとメルティも同行してくれているという、安心感MAXの初陣だった。
「気を抜くな。初任務は“慣れた道こそ危険”ってよく言うだろう」
セリナは相変わらずストイックだ。
「でも、イッセイ君の顔が前より頼もしくなってるよね〜♪」
メルティのひらひらローブが風に揺れる。
「前より、ですか?」
「うん。“守りたい”って顔してる。前は“覚えなきゃ”って顔だったからね」
「……そう見えてたんだ。たぶん、その通りかも」
(剣も魔法も、“誰かのために振るう”ために身につけた。だったら、いまがその時だ)
* * *
午後になり、森の中の小道に差しかかったとき。
「前方から――悲鳴!? 子供の声だ!」
商人の一人が叫ぶ。
「全員停止! 戦闘準備!」
セリナがすぐさま指示を飛ばし、護衛たちが展開。
茂みの奥、明らかに魔物の唸り声が聞こえる。
僕は即座に走り出していた。
「イッセイ、単独行動は――!」
「行ってきます! 必ず戻るから!」
剣を抜きながら、声を張った。
* * *
見つけたのは、開けた草地。
そこには、三人の少女がいた。
服はぼろぼろ、肌は傷だらけ。
銀髪の猫耳、青髪のウサ耳、そして黒髪の褐色肌――ダークエルフ。
彼女たちを囲むように、狼型の魔物――ブラッドハウルが5体。
(まずい……このままじゃ……!)
「――離れろ!!」
僕の声に反応し、魔物たちがこちらを睨む。
剣を構え、一気に距離を詰める。
「《フレイムショット》!」
先制魔法で一体の動きを止め、すぐさま斬りかかる!
「はっ!」
ザンッ!
炎の煙を抜けて、魔物の喉元を断つ。
「2体目――!」
「っ……主さま……?」
少女たちの声が聞こえた気がする。
でも、集中は切らさない。
「《風刃》!」
残りの魔物を距離から削り、動きが鈍った瞬間に、駆け込んで一閃!
――全滅。
静寂が戻った森で、僕は荒い息を吐いた。
「……ふぅ、間に合った、かな」
* * *
三人の少女は、まだ恐怖に震えていた。
でも、僕が手を差し出すと――ウサ耳の子が、そっと指先で触れてきた。
「もう大丈夫。僕は君たちを助けに来た」
「……本当に、助けに……?」
「うん。誰かに命令されたわけじゃない。僕が、君たちを“守りたくて”来たんだ」
猫耳の子が涙を流した。
ダークエルフの少女は、歯を噛みしめながら言った。
「……信じないぞ、そんなこと……」
「信じてもらえるように、これから行動で示すよ」
* * *
その夜、焚き火の前でセリナが言った。
「見事だったな。あの戦い方と判断力、君はもう一人前だよ」
「でも、一番大きいのは……あの子たちに出会えたことだと思うんです」
「そうね。運命ってやつかな」
「うん……でもその運命を選んだのは、イッセイ君だよ」
メルティが微笑む。
焚き火の影で、三人の少女たちは寄り添って眠っていた。
その小さな背中が、僕の胸の奥をじんわりと温める。
(この世界で、生きる理由がまた一つ、増えた気がする)