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侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!  作者: のびろう。
第4章 冒険編 〜ヒノモトの侍〜

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遥かなる東方、因果の里へ

「……あれが、ヒノモトの外門だよ」


朝靄に包まれた東の平野を抜けた先、丘の斜面から見下ろしたその光景に、一行は思わず足を止めた。遠くに見えるのは、漆黒の瓦屋根と白壁を配した、和の様式で築かれた巨大な城門。そして、その周囲をまるで濁った水墨画のように覆い尽くす──不気味な瘴気の霧。


「っ……あれが、瘴気ってやつか。近づくほどに息苦しくなるな……」

イッセイが額に汗を滲ませながらつぶやくと、隣でルーナがハンカチを取り出して手渡した。


「はい、イッセイくん。汗、拭いてあげる」

「ありがとう、助かる」


そのとき、サーシャは無言のまま視線を門の先に注ぎ続けていた。彼女の瞳には、かつての故郷が瘴気に蝕まれている現実が、何よりも鋭く突き刺さっていた。


「私の、帰る場所が……」


静かに絞り出されたその声には、怒りでも悲しみでもない、無力感が滲んでいた。イッセイはそんな彼女の肩に手を置いた。


「取り戻そう。君の故郷も、人々の暮らしも、全部。俺たちでさ」

「……うん」


その時だった。門の方角から、甲高い警鐘と兵士たちの怒号が響いてきた。


「瘴気獣だァーッ! 門前に三体、突破されるぞ!」


「くっ、行こう!」


イッセイは腰の剣を抜き、サーシャも長刀を引き抜いて霧の中へと駆け出す。続いてクラリス、ルーナ、セリア、ミュリル、フィーナと仲間たちもそれぞれ武器を構えた。


城門前では、まるで獣と鬼が混ざったような異形の存在──瘴気獣が、兵たちを蹴散らしていた。体表から常に瘴気を噴出し、目は赤黒く濁っている。


「囲め! 正面は私が取る!」


サーシャが地を滑るように前へ出て、鋭く斬り込む。

刃が触れた瞬間、瘴気を吹き飛ばす風のような音と共に、獣の前脚が弾け飛んだ。


「おおおおおおっ!」


兵士たちの士気が上がる。

イッセイも剣を構え、瘴気獣の背後に回り込んだ。


「《剣風・破断》!」


剣から放たれた真空の斬撃が獣の胴を一閃。

断末魔をあげて崩れ落ちると、残りの二体も仲間たちによって瞬く間に倒された。


「……ふぅ、これでどうにか城門は守れたか」

イッセイが剣を納めると、周囲の兵士たちが駆け寄ってきた。


「助太刀、感謝いたします! まさか門まで瘴気獣が来るとは……」


「何が起こっているんだ? この国で」

ルーナがやや眉をひそめて問うと、兵士は険しい顔で語り出した。


「二月前、王都でクーデターが起きました。将軍家が襲撃され、今は“名代”と名乗る者が統治を……。それと同時期に、各地に瘴気が現れ始めたんです」


「偶然にしては出来すぎているわね」

クラリスが静かに言い、サーシャが唇を噛んだ。


「それって……まさか、闇ギルドの仕業か?」

「ええ、おそらく。裏では“黒幕”が動いていると噂されています。地方領主の中には闇ギルドと結託した者も多く、街道は閉ざされ、流通も絶たれた状態です」


「……この国を、壊そうとしている誰かがいる」


イッセイは城門の内へと視線を向けた。

そこに広がるのは、かつて「四季の楽園」と呼ばれたヒノモトの景観──しかし今は、瘴気に霞み、木々は枯れ、河は濁っている。


「私の、思い出が……こんな……っ」

サーシャが拳を握りしめる。その肩をイッセイがそっと叩いた。


「進もう、サーシャ。君の隠れ里に。きっと、希望はまだ残ってる」

「……うん。案内するわ。皆、ついてきて」


「……ここが、わたしの故郷……“カグヤの隠れ里”よ」


山深い渓谷を抜け、苔むした石段を登った先に広がっていたのは、霧に包まれた静謐な里だった。

瓦屋根の家々が整然と並び、庭先には手入れの行き届いた苔庭と風鈴が揺れている。

瘴気がうっすらと漂うものの、外の荒廃と比べれば奇跡的に保たれていた。


「わあ……なんだか、幻想の世界みたいウサ」

「空気が違うにゃん……でも、やっぱり少し重たい気もする」


フィーナとミュリルが里の空気を感じ取りながら目を細める。

そんななか、ひときわ背筋を伸ばした老剣士が門の奥から現れた。


「……サーシャか。生きておったか」


「長老……!」


サーシャが駆け寄り、礼を取る。

イッセイたちも頭を下げると、長老は深くうなずき、静かに手を招いた。


「そなたらも、よく来てくれた。……わしは、この里の長老・ツラギ。事情はすでに聞いておる。部屋を用意した、まずは座って話そう」


***


囲炉裏の火がぱちぱちと鳴る静かな座敷。

お茶の香りと、懐かしいような木のぬくもりに包まれながら、一同は膝を揃えた。


「まずお伝えせねばならぬことがある。……この里を、そしてヒノモトを覆う瘴気の根源について、じゃ」


ツラギ長老は目を閉じ、長く息を吐いた。


「数百年前、この国には“黒炎ノ魔”という災厄が封じられておった。剣の始祖・アマカゲと、霊術師たちによって深山の“封魂殿”に封印され、それ以来この地は安寧を保ってきたのじゃ」


「黒炎ノ魔……?」


イッセイが眉をひそめると、ツラギはうなずく。


「今、瘴気が拡がり始めた地は、その封印に繋がる霊脈の要所ばかり。……何者かが、意図的にその結界を弱らせておる。やがて封印が完全に破られれば──この国は再び“黒炎”に呑まれよう」


「……それが、闇ギルドの狙いなのか」


クラリスが低く呟くと、ルーナがふっと冗談めかして笑った。


「イッセイくん、今回もまた世界を救う旅ってわけね」


「……なんだか、毎回スケールが大きくなってる気がするな」


イッセイが肩をすくめて言うと、皆がクスリと笑った。

だが、その空気を打ち払うように、襖がスッと開く。


「……サーシャ、帰っていたのか」


現れたのは、白と藍の装束を身にまとった、整った顔立ちの青年剣士。

腰には二本の刃、背筋はまっすぐ、ただその眼差しはどこか複雑だった。


「カズヒト……!」


「随分と騒がしいと聞いていたが……他国の者を連れて、何を企んでいる」


「企んでなんかいない! わたしは、ヒノモトを救うために戻ってきたのよ!」


きっぱりと言い切るサーシャ。だが青年──カズヒトは、その視線をイッセイへと移した。


「そちらが……お前の“連れ”か」

「はい、私はイッセイ・アークフェルド。この国と、サーシャを助けたいと思っています」


「……ふん。そう簡単に言うものじゃない。口先だけで“救う”などと」


カズヒトの言葉には、刺々しさと、そして――わずかな嫉妬がにじんでいた。

イッセイは静かに微笑を返す。


「口先だけじゃ、信じてもらえないのは分かってます。でも、やるべきことはきっとある。剣と、想いで証明しますよ」


「……ふむ」


サーシャが少し困ったように苦笑した。


「カズヒトは、わたしの幼馴染で、今はこの里を守っている剣士よ。……ちょっと口が悪いけど、腕は確かよ」


「そちらの剣士さまも、ずいぶんとイッセイくんにご執心ね」

ルーナがくすっと笑い、クラリスは黙ってイッセイの隣にぴたりと寄った。


「さて……長老、この先の計画を聞かせてくれませんか」


イッセイの問いに、ツラギは目を開けて言った。


「黒炎ノ魔の封印地、“封魂殿”への道はすでに瘴気で覆われておる。その前に、三つの“霊灯”を浄化せねばならぬ。霊灯とは、この地を護る三つの結界石──今はそれぞれの地で、守人を失い暴走しておる」


「そこを浄化しながら進むってことね」

「面白くなってきたにゃん」


イッセイは仲間たちの顔を見渡し、真っ直ぐにうなずいた。


「──行こう、サーシャ。君の大切な場所を、取り戻しに」


カグヤの隠れ里を出たイッセイ一行は、山間の獣道を進んでいた。目的は、里の霊灯──ヒノモトに伝わる霊的結界の中枢を浄化すること。霊灯は本来、周囲の瘴気を浄化し、精霊との調和を保つために設けられた神聖な場所だ。


「サーシャ、霊灯ってのは具体的にどうなってるんだ?」

「ふむ。やしろのような構造の中央に『霊珠れいじゅ』が安置されておる。それが穢れると、霊灯の力も弱まる……という寸法でござるな」


会話を交わしながら、濃くなる瘴気にマフラーを当てて進む一行。途中、崩れた鳥居や倒れた石灯籠が無惨な姿を晒し、かつて神域だった場所が見る影もなく朽ちていた。


「空気が、どんどん重くなってるウサ……」

「ミュリル、前を頼むにゃん。反応があれば教えてにゃ」

「了解にゃんっ」


瘴気の濃度が増す中、前方に精霊の嘆きが渦巻くような気配が満ちていた。やがて、森の奥から異形の唸り声が響く。


「出るぞ、構えろ!」


イッセイが声をかけた瞬間、瘴気の中から現れたのは、獣と蛇が融合したかのような巨大な魔物だった。瞳は濁り、体表は黒い瘴で覆われている。


「瘴気獣──これほど大きいとは……!」


サーシャが構えを取るや否や、カズヒトもすかさず横に立つ。


「イッセイ殿、左右から挟む形で!」

「了解。セリア、援護を」

「は、はい! イッセイ様、後ろは任せてくださいっ」


バトルが始まる。瘴気獣は大蛇のように体を蠢かせ、尾で地面を薙ぎ払う。飛び散る土砂。フィーナが空中から雷撃魔法で牽制し、ミュリルが風の障壁を張る。


「せぇいっ!」

「そこだ、斬るッ!」


サーシャとカズヒトの連携は見事だった。イッセイは一瞬の隙をつき、気を纏った剣で瘴気獣の腹部を斬り裂く。しかし──


「なっ、再生している!?」


斬られた肉が、黒い瘴気を糸のように絡めて繋がっていく。


「瘴気による自己修復か。ならば、浄化するまで斬るだけ!」


イッセイの剣が光を放つ。サーシャとカズヒトも気を一点に集中させ、三者同時の斬撃が放たれる。


「──光輪・断滅こうりん・だんめつッ!!」


閃光とともに、魔物の体が音を立てて砕け散った。


霧が晴れ、静寂が訪れる。


「……終わったか」


セリアが安堵の吐息を漏らし、ミュリルとフィーナが傷の確認に回る。やがて、崩れた神域の奥に、目的の霊灯が姿を現した。


「霊珠が……泣いておる」


サーシャの呟きに、全員の表情が引き締まる。


「やろう。俺たちにできることを」


イッセイは霊珠に手をかざし、仲間たちとともに静かに気を注ぐ。その光は穏やかに、しかし確かに瘴気を押し返し、清らかな風が一帯に吹き渡る──。


「ありがとう、皆」


サーシャの目に、涙が滲んでいた。


その背後で、森のさらに奥に続く別の気配に、イッセイはふと目を向ける──。


(……まだ何かが、ある)

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