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侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!  作者: のびろう。
第4章 冒険編 〜ヒノモトの侍〜

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刃の交錯、誇りの名乗り

 風が止んだ。

 屋台の喧騒が遠くなり、まるで時間がゆっくりと流れ始めたように感じられた。


 侍装束の少女は、静かに右手を柄に添えたまま、酔漢たちを睨み据える。


「抜いたからには……命のやり取り、覚悟の上でござろうな?」


 その一言に、男たちの背筋が凍りついた。だが、恐怖を怒りでかき消すように、最初に声を荒げた男が刀を振り上げる。


「チッ、やっちまえ! 女ひとりにビビるなよ!」


 その瞬間——鋭い金属音が空気を裂いた。


 少女の太刀が抜かれた気配すら感じさせぬ速さで振るわれ、男の刃は空を斬っていた。間髪入れず、少女は身体を沈めながら左手で鞘を支え、流れるような動きで次の男の足元に踏み込む。


「——『流水・初ノ型』」


 低く呟かれた名乗りと共に、太刀が走る。足を払われた男は無様に転倒し、そのまま動けなくなった。


「く、くそっ!」


 残る一人が斧を構えて突進するが、少女は顔色一つ変えずにその斧の軌道を正確に読み取り、僅かに身を引きながら袈裟に斬り返す。


 刃は男の肩口の上、衣の布だけを斬り裂いて止まり、斬撃の風圧で後ろに吹き飛ばす。


「威嚇にて十分……武を以て証するまでもなし」


 男たちは呻きながら地面に転がり、誰一人反撃する気力を失っていた。


「……お、お姉ちゃん……!」

 庇われていた子供が少女の背後から顔を覗かせる。


「怪我はないか。恐怖を乗り越えたその心、武士の魂に恥じぬぞ」


 少女は膝をついて、子供の頭を優しく撫でた。優美な仕草だったが、その背筋には隙がなく、敵が再び動けば即座に応じる構えだった。


「いやぁ……すごいな、あの子……」

 通行人がざわめき始めたところに、イッセイたちがようやく駆け寄る。


「大丈夫ですか? 怪我は……」


 イッセイが声をかけると、少女はすっと立ち上がり、整った顔立ちでこちらを一瞥した。


「助太刀、不要であったな」


 言葉は厳しいが、敵意はなかった。イッセイは微笑を浮かべて頭を下げた。


「見事なお手並みでした。……お名前を、伺っても?」


 少女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を引き締める。


「拙者は——サーシャ・カグヤ。ヒノモトの国より、道を求めてこの地を旅する流浪の侍である」


 風が吹き抜け、少女の髪が舞い、太刀の鍔が陽光を受けて煌いた。


 その名乗りが、この物語の新たなる章の始まりを告げる。


 名乗りを終えたサーシャ・カグヤの周囲には、一瞬の静寂が広がった。群衆は先ほどの戦いを呆然と見つめていたが、やがて小さな拍手がどこからともなく起こり、それが波紋のように広がっていった。


「すごい……あんなに綺麗な剣筋、初めて見たウサ……」

 フィーナが感嘆の息を漏らし、ぽつりと呟いた。


「にゃー……完全に型が決まってたのにゃ。あの動き、修練の塊だにゃん」

 ミュリルも目を丸くしながら、まるで舞を見ていたかのように両手を合わせる。


「ふふ、イッセイくん。やっぱり、ただの旅人じゃなさそうだね」

 ルーナが隣で肩を寄せながら、面白がるように目を細める。


 クラリスは腕を組みつつも、瞳を輝かせていた。

「身のこなし、目の動き、そして剣さばき……まるで王国の騎士長のよう。いえ、それ以上かもしれませんわ」


 イッセイはそんな仲間たちの反応に軽く頷いた後、サーシャへと向き直った。


「サーシャさん……あらためて、お見事でした」


「……拙者は己の正義を行ったまで。礼には及ばぬ」


 短く返し、サーシャは子供たちの安全を確認すると、そのまま背を向けて歩き出そうとした。


「待ってください」

 イッセイが一歩踏み出し、その背中に声をかけた。


「もしよければ、一緒に来ませんか? 僕たち、今は旅の途中でして……あなたのような人と道を共にできたら、心強い」


 サーシャは立ち止まり、背中越しに少しだけ顔を傾けた。


「拙者は一人旅を旨としている。……しかし」


 ふと視線を向けた先にいた子供が、小さく手を振った。サーシャの表情がほんのわずかに和らぐ。


「貴殿らが、この町の人々に信頼されていると見受けるゆえ……同行、考えてやってもよい」


 そう言って向き直ったその顔は、戦いのときの鋭さとは異なり、どこか年相応の柔らかさを感じさせた。


「やった〜! また仲間が増えるのウサ!」

 フィーナがぴょんと跳ねて喜び、ミュリルが「にゃにゃっ、新しい美人枠追加にゃ〜」と冗談を飛ばす。


 クラリスは静かに口元をほころばせてからサーシャに一礼した。

「ようこそ、我らの旅路へ。あなたのその剣が、民のために振るわれることを、わたくし心から歓迎いたしますわ」


 ルーナは小悪魔的な笑みを浮かべながら、サーシャの肩に手を置く。

「イッセイくんには手を出さないでね、ふふっ」


 それに対し、サーシャは困ったように小さく首を傾げた。

「そのつもりは……ないが。貴殿らの関係性、なかなか複雑そうだな」


 場の空気が笑いに包まれ、重かった雰囲気が少しずつ和らいでいく。


 しかし、その平穏の裏で、先ほどの騒動を物陰から見つめていた影がひとつ。

 黒装束に身を包んだ男が、サーシャを睨みながら呟いた。


「……あの娘、ヒノモトのカグヤ家の血筋か……。思ったよりも厄介だな」


 男は静かにその場を離れ、闇に紛れて消えていった。


 ——次なる騒動の火種を残して。


 その夜、イッセイたちは町の宿屋の広間を借り切り、サーシャの加入を祝う簡単な夕食会を開いていた。ろうそくの明かりがテーブルを照らし、陶器の器に盛られた煮込み料理からは、芳醇な香りが立ち上っている。


「むぅ……この牛肉の煮込み、なかなかの味わいだな。胡椒の風味が利いていて、米が欲しくなる」

 サーシャが腕を組み、じっくりと味を確かめるように呟く。


「そう言えば、ヒノモトではお米が主食なんだっけ?」

 イッセイが尋ねると、サーシャは真面目な顔で頷いた。


「うむ。白き粒を蒸し上げた飯は、腹持ちよく、戦の前には欠かせぬ。味噌汁と漬け物があれば、なお良し、だ」


「にゃはっ、ミュリルも一度食べてみたいにゃん!」


「ウサウサ、明日市場に行って、ヒノモト食材探してみようウサ!」


 話題が盛り上がる中、クラリスがふとサーシャに向き直った。

「ところでサーシャさん、あなたの家は……カグヤという名家だと伺いましたが、それは……?」


 その言葉に、場の空気が少しだけ引き締まる。サーシャは静かに盃を置き、姿勢を正して語り始めた。


「……カグヤ家は、ヒノモトにおいて長らく武家の頂にあった家系。しかし、時代の流れと共に没落し、今や名ばかりの存在となり果てた」


 クラリスが眉をひそめ、ルーナはわずかに目を伏せた。だが、サーシャの口調には暗さよりも、どこか澄んだ覚悟があった。


「されど、武士の魂は絶えぬ。拙者はただ、己が剣で道を拓き、人のために刃を振るう。それだけよ」


 その言葉に、イッセイは微笑を浮かべた。

「……それでこそ、仲間として頼もしい。君の剣を、これからの旅路に預けさせてほしい」


 サーシャは少し驚いたように瞬き、次いで、穏やかに頷いた。

「承知。拙者の刃、イッセイ殿に託そう」


 再び場が和やかに戻ったころ、宿の扉が激しく叩かれた。


「……イッセイ様! たいへんです!」


 宿の外から声が響き、使用人のひとりが血相を変えて飛び込んでくる。


「町の裏手で、何者かが子供たちを襲っていると……!」


 瞬間、全員の表情が引き締まった。イッセイは立ち上がり、剣の柄に手をかける。


「行こう。今度は僕たちが、この町の子供たちを守る番だ」


 サーシャもまた、腰の刀に手を添え、静かに言葉を重ねた。


「抜けば斬るのみ、拙者の流儀に従い申す——その者、成敗いたす」


 ——宿の扉が開かれ、夜の風が吹き込む。

 戦いの幕は、再び上がろうとしていた。

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