訓練試合と、初めてのスキル進化
「よし、今日はちょっとだけ本気でいくよ!」
朝から気合い充分。中庭に立つ僕の手には、練習用の木剣。
対するのは、剣術教師・セリナ先生。今日は“試合形式”での訓練だ。
「イッセイ。遠慮はいらない。来い」
「それ、めちゃくちゃ強キャラの言い方ですね」
「言っておくが、私は容赦しないぞ。こっちは本気だ」
「ひえっ。でも、やります!」
(こっちも少しずつ手応えが出てきてる。やるしかない!)
* * *
「はっ!」
「っ、いい踏み込み……!」
まずは一撃目。体重を乗せての斬撃――受けられたけど、先生の目がわずかに見開かれた。
(悪くない、ちゃんと反応できた……!)
「次はどう来る?」
「こうですっ!」
左足を軸に回転、低い姿勢からの払い。
すかさず前に出て、フェイントを入れて――
「っ!」
先生が一歩退いた! これまでで初めて!
「……ふふ。動きに“迷い”がなくなってきたな」
「やった……進歩、してる!」
「だが、ここからだぞ!」
セリナ先生のカウンター、鋭い!
「っとと――」
ギリギリで避けて間合いを取り直す。汗がにじむけど、楽しい。
(本気の相手にここまでやれるって、すごくない?)
* * *
「……ふぅっ、引き分け、ということでいいかな?」
「今回はな。次は倒す」
「え、次こそ負けるフラグじゃないですかそれ」
「口は達者になってきたな」
試合が終わった後、僕はぜーはー言いながらも、手応えに満ちていた。
「よし、次は魔法だー!」
「イッセイ君、テンション高い〜! でもその意気やよし!」
メルティ先生が笑顔で迎えてくれる。今日は初級攻撃魔法の実戦形式。
「魔晶石の的を燃やしてみよっか! 照準、しっかりね〜」
「了解! ……《フレイム》!」
手を伸ばし、詠唱とイメージを重ねる。
小さな火球が発生し――
「ていっ!」
ドン!
魔晶石の的が見事に燃え上がった。
「うわーっ! 命中命中! やったね〜!」
「やった……! 一撃で!」
そのとき、頭の中にまた表示が浮かぶ。
スキル《フレイム》の習熟度が一定に達しました
→《フレイム》が《フレイムショット》に進化しました!
「……おぉっ!? 進化した!?」
「えっ、スキル進化!? はや〜っ!?」
「自分でもビックリしてるよ!」
まさか、ここまで早く実感できるとは思わなかった。
力を少しずつ積み重ねていった結果が、ちゃんと“成長”という形で返ってくる。
「剣も魔法も、少しずつだけど……僕、強くなってるんだな……!」
「うんうんっ、その調子だよ〜!」
「次は先生たち、抜かされるかもしれんな」
「それはまだ早いです!」
「否定が早い!」
三人で笑い合いながら、夕焼け空を見上げた。
(この世界で、生きる。戦える。誰かを守れるくらいに――なってみせる)
その決意は、今日の訓練でほんの少し、現実味を帯びてきた。