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侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!  作者: のびろう。
第15章 最後の神具と、神々の審判

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砕け散る天秤、敗北した“理”

俺の剣が天秤に触れた瞬間、神々の理が、甲高い悲鳴を上げた。


《精霊剣リアナ》は、もはやただの剣ではない。

俺と、仲間たち全員の魂、そしてリアナの想いが宿った、“想いの器”だ。それは、「AかBか」という神々の二元論的な理屈を、根本から否定する“第三の答え”そのものだった。


混沌でもなく、犠牲でもない。

『仲間と共に、新たな未来を創造する』という、神々の計算式には存在しなかった、あまりにも人間的で、非論理的な選択肢。


《エラー。エラー。未定義の変数を検知。論理体系システムに存在しない選択肢です》


《“絆”、“希望”、“愛”……定量化不能なノイズにより、因果律の計測がオーバーフローします》


俺の脳内に、オリオンの焦りの思考が、ノイズ混じりで流れ込んでくる。


《馬鹿な……! 天秤は、二つの事象を比較衡量するためにある! 中央に置くなどという選択肢は、論理的に存在しない……! それは、答えではない! ただの、システムの破壊行為だ!》


「違う!」俺は心の中で叫ぶ。「これは破壊じゃない! “創造”だ!」


黄金の天秤が、俺の剣が放つ温かい光に耐えきれず、ギシギシと軋み始める。

天秤の両皿に映し出されていた『混沌の未来』と『犠牲の上の平和』の幻視が、ノイズの走った映像のように乱れ、やがて砕け散った。


パァァァァァンッ!!!


《未来を識る天秤》は、澄み切った鐘の音のような、甲高い音と共に砕け散り、無数の光の粒子となって音のない空間に消滅した。

神々の試練、そのものが、俺たちの“想い”の前に、砕け散ったのだ。


そして、音が消えたはずの世界に、初めて“風”が吹いた。

それは、生まれたばかりの赤子のように、穏やかで、優しい風だった。


オリオンは、その光景を、呆然と見つめていた。

彼の背後にあった六枚の光の翼は、その輝きを失い、力なく垂れ下がっている。


《……理が……砕かれた……。私の計算を超える、答え……だと……?》


彼は、俺たちの前にゆっくりと膝をついた。

それは、力による敗北ではない。


自らが絶対と信じていた“理”が、覆されたことによる、完全な敗北だった。

神々のシステムが、俺たち人間の“心”に負けた瞬間だった。


「……見事だ、人の子よ」


初めて、彼の思考に、冷徹な理屈以外の“感情”が混じった。

それは、悔しさであり、そして、ほんの少しの……畏敬の念だった。


「お前たちの“想い”は、神々の理を超えた。……もはや、私が止める理由はない。私のシステムでは、お前たちの行動原理を、そしてその結末を、予測することができないのだから」


彼は立ち上がると、砕けた天秤の奥に、その手をかざした。

すると、何もない空間が水面のように揺らぎ、星屑を散りばめたような、輝く光の扉が出現した。

扉の向こうからは、穏やかで、しかしどこか哀しい気配が漂ってくる。


「行け。世界の根幹、《魂の揺り籠》へ」


オリオンの声は、もはや審判者としてのものではなかった。

ただ、物語の結末を見届けようとする、一人の観察者の声だった。


「魔王の魂は、世界の哀しみの集合体。聖女の魂は、世界の慈愛の集合体。矛盾する二つが、千年の間、互いを縛り続けている。私の理屈では、そのパラドックスは解けなかった。……だが、お前たちなら」


彼は、俺を、そして俺の後ろに立つ仲間たちを、一人ひとり見つめた。


「お前たちが紡ぐ物語の結末を、この私に見せてみろ」


オリオンはそれだけを告げると、静かに光の中へと姿を消した。

祭壇には、俺たちと、目の前に佇む光の扉だけが残された。


「……行ったな」


「ええ。でも、なんだか……彼の背中、少しだけ寂しそうに見えましたわ」


クラリスの言葉に、俺は何も答えなかった。

彼もまた、神々の理という名の、孤独な牢獄に囚われていただけなのかもしれない。


俺は、仲間たちを振り返った。

誰もが疲弊しきっていたが、その瞳は、確かな達成感と、次なる決意の光に満ちていた。


「……やったのね、私たち」


ルーナが、涙を浮かべながら、最高の笑顔で言った。


「ああ。俺たちだけの力じゃない。リアナが、そして神柱たちが、信じてくれたおかげだ」


俺は、光の扉へと向き直る。

ここが、本当の最終決戦の地。


魔王を倒すためじゃない。神々を断罪するためでもない。

千年間、独りで泣き続けてきた、哀れな魂を救い出すために。


「行くぞ、みんな」


俺の言葉に、仲間たちは力強く頷いた。

俺たちは、互いに視線を交わし、そして、光の扉へと、共に一歩を踏み出した。


世界の最も深い場所、魔王とリアナの魂が眠る、最後の聖域へ。

俺たちの、本当の戦いは、ここから始まる。

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