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侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!  作者: のびろう。
第14章 歓喜の城塞と、偽りの楽園

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違和感の正体と、孤独な王様

偽りの楽園は、どこまでも甘美だった。

サーシャは、平和な故郷ヒノモトで、生きて笑っている兄と共に剣を振るっていた。

もう二度と失うことのない、温かい日常。


ルーナは、しがらみの一切ない自由な空の下、冒険者の俺と共に、まだ見ぬ世界へと旅を続けていた。

毎日が刺激と喜びに満ちていた。


セリアは、完璧に清潔で、一点の曇りもない城で、危険なことなど何一つしない、穏やかな俺に仕えていた。

その日々は、彼女が理想とした“完璧な奉仕”そのものだった。


シャルロッテ、フィーナ、ミュリル……誰もが、心の最も深い場所で望んでいたはずの“完璧な幸福”を与えられていた。


だが、その完璧すぎるが故に、違和感の正体は、やがてはっきりとその輪郭を現し始めた。

――それは、“孤独”だった。



自分だけの幸福には、共に苦しみ、笑い合った仲間たちの、あの騒がしくて、愛おしい姿がなかったのだ。

その事実に気づき始めた彼女たちの楽園は、少しずつ、しかし確実に、その鮮やかな色彩を失っていく。


「兄上、今日の稽古も見事でした。……ですが、時折、思い出します。わたくしには、他にも守るべき“仲間”がいたような……」


サーシャの問いに、幻影の兄はただ優しく微笑むだけだった。


「何を言っている、サーシャ。お前の居場所は、ここだけだ。お前には、もう我らがいれば十分であろう?」


(……十分? 本当に、そうなのだろうか。あの商人の娘のけたたましい笑い声も、王女殿下の気高き叱責も……それらがないこの平穏は、あまりにも静かすぎる……)


「イッセイくん、見て! すごい財宝よ! これだけあれば、一生遊んで暮らせるわね!」


ルーナの歓声に、幻影の俺は愛おしげに頷く。


「ああ。二人で、誰にも邪魔されず、世界の果てまで行こう」


(……二人で? ……そうか、二人だけ、か。……なんだろう、この胸の空洞は。こんなすごい発見、一番に見せびらかして、悔しがらせたい相手がいたはずなのに。……あの、いつもすましている、金髪のお姫様に……)


その頃、俺の試練もまた、続いていた。

俺の世界では、ただ一人のヒロインだけが、俺の隣にいた。穏やかな田舎町。


小さな家。

隣には、王女の身分を捨てた、ただの優しい少女としてのクラリスがいる。


完璧な、幸せな毎日。

だが、朝目覚めると、彼女は消えている。


代わりに、公爵家の身分を捨てた、快活な冒険者としてのルーナがいる。

昼食の後、ふと気づくと、彼女は世界一の商人になったリリィに変わっている。


クラリスが消えればルーナが現れ、ルーナが消えればリリィが現れる。

その度に、前のヒロインが存在したという事実そのものが、世界から消去されていく。

だが、俺の心の中の記憶だけは、消えない。


「選びなさい」と、世界が囁く。


誰か一人を選べば、他の全員を失う。

それは、幸福などではなく、俺の心をじわじわと殺していく、究極の苦痛だった。


(やめろ……やめてくれ……! 俺は、誰も失いたくない……! クラリスの気品も、ルーナの笑顔も、リリィのガッツも……その全てが、俺の宝物なんだ……!)


ーーーーー


「もう、たくさんですわ!」


最初に偽りの楽園を、自らの意志で拒絶したのは、クラリスだった。

その日、完璧な王であるはずの幻影の俺が、彼女に一つの政策を提案した。


「永遠の平和を維持するため、民の感情と思想を、我らが管理するのです」と。

それは、オリオンが語った“理”そのものだった。

その瞬間、クラリスの中で何かが切れた。


「……あなた、誰ですの?」


クラリスは、玉座から静かに立ち上がると、冷たい目で幻影の俺を見つめた。


「わたくしの知るイッセイ様は、そんな氷のような目をなさらない! 彼はもっと、不器用で、お人好しで……そして、誰よりも人の心の痛みに寄り添える、温かい心を持った方!」


彼女の瞳から、涙が溢れ出す。


「たとえ国が乱れようと、わたくしは、そんな偽物の平和など望みません! わたくしが欲しいのは、完璧な世界じゃない! あの騒がしくて、手のかかる、かけがえのない仲間たちと……わたくしが愛した“あなた”がいる、不完全な現実です! 返しなさい!」


彼女がそう叫んだ瞬間、完璧だったはずの平和な王国が、ガラスのように砕け散った。


その魂の叫びは、連鎖反応を引き起こした。

偽りの幸福に囚われていたヒロインたちが、次々と自らの意志で、その牢獄を打ち破っていく。


「そうだ! あたしが欲しいのは、金でも名声でもない! あいつらと馬鹿騒ぎできる、あの時間なんだよ!」


リリィが叫ぶと、黄金の会長室は崩れ落ちた。


「拙者の剣は、もはや過去の復讐のためには振るわぬ! 今ここにある、仲間たちの未来を守るためにこそある!」


サーシャが叫ぶと、燃える故郷は光の中に消えた。


「あたしは、もう独りじゃない! あたしの本当の笑顔を、好きだと言ってくれる人がいる!」


ルーナが叫ぶと、仮面舞踏会は霧散した。


セリアが、シャルロッテが、フィーナが、ミュリルが。

一人、また一人と、仲間たちが俺の声に応えるように、自らの力で悪夢を打ち破っていく。


彼女たちは、俺との旅の中で得た“絆”という名の光で、自らの過去の影を照らし出したのだ。


そして、俺の世界でも、決断の時が来ていた。

全てのヒロインの幻影が目の前に並び、世界が最後の選択を迫る。


「さあ、イッセイ。誰を選ぶの?」


その愛しい幻影たちに向かって、俺は、はっきりと告げた。


「……決まってる。――お前じゃない」


「え……?」


幻影が、哀しげに揺れる。


「俺が欲しいのは、たった一人の完璧な恋人じゃない! やかましくて、わがままで、手のかかる……それでも、どうしようもなく愛おしい、俺の大切な“全員”だ!」


俺は、拳を握りしめた。


「誰一人欠けた未来なんて、俺は選ばない! クラリスの気高さを、ルーナの自由さを、リリィのたくましさを、セリアの不器用さを、サーシャの誠実さを、シャルロッテの優しさを、フィーナの歌声を、ミュリルの温もりを! その全てがあって、初めて俺の未来は完成するんだ! 俺の仲間たちを、返せ!」


俺がそう叫び、虚空を殴りつけた瞬間、俺の手の中に《精霊剣リアナ》が光と共に具現化した。

俺は、その剣を、偽りの世界そのものへと、力任せに叩きつけた。


世界が、断ち切られる音がした。

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