剣と魔法と、きらめく予感
「はーい、そこっ! 剣の角度が甘い! 背筋を伸ばして、気迫で押し込む!」
セリナ・バレンティアの叱咤が、剣術訓練場に響き渡る。
「ふふっ……やっぱり、こういうの、燃えるわね……!」
セリアが満面の笑みで剣を振るい、フィーナとミュリルはそれぞれ体術と回避訓練に汗を流している。
イッセイもまた、汗を拭いつつ木剣を持ち直し、次の指導に備えていた。
そんな中、隣の魔法訓練場からメルティ・クラウゼルの魔法指導の声が聞こえてくる。
クラリスとルーナは魔法組として参加し、仲良く詠唱練習をしていた……その時だった。
「へぇ……なるほどな。これが“侯爵家の三男様”と、その“取り巻きの可愛いお嬢さん方”か」
訓練場の柵にもたれかかりながら、いやらしい笑みを浮かべた男が現れる。
「ヴィンセント・ベルトレイ侯爵家の次男よ……」と、クラリスが小声でつぶやく。
学内では有名な問題児。家柄と容姿に胡坐をかいた、性格最悪の貴族だった。
「クラリス様、今日の装いもお美しい……ルーナ嬢もまた、艶やかですな」
視線は明らかに、いやらしく体を上下に這っていた。
「その目、やめてもらえるかしら? 不愉快よ」
ルーナがピシャリと返すと、ヴィンセントはわざとらしく笑い、突然ルーナの腕に手を伸ばした。
「そんな冷たい口調は似合わないよ? ほら、もう少し距離を縮めても――」
「やめてもらえますか」
――その瞬間、イッセイがヴィンセントの手を指先で軽く払いのけた。
「僕の大切な仲間に、無礼な真似は感心しませんよ。……名門の御子息なら、尚更ね」
ヴィンセントの顔が、みるみる紅潮する。
「……てめぇ、俺を誰だと思ってる! やれ!」
取り巻きの生徒たちが、三人一気にイッセイへと掴みかかってくる。
だが――
「ふっ」
イッセイは一歩も動かず、木剣を横に払うだけで、全員のバランスを崩し、見事に地面へ転がした。
「……無駄な動きと、悪意ある動作は、すぐ崩れるんですよ。ちゃんと学ばないと」
ヴィンセントは悔しげに舌打ちしながら、捨て台詞を吐いた。
「このままで済むと思うなよ……“平民くずれ”が!」
そして、足音荒く立ち去っていく。
「ふぅ……面倒な人だったね」
イッセイが笑ってルーナの方を向くと、彼女は珍しく真面目な顔で、じっと見上げていた。
「……助けてくれて、ありがとう。イッセイくん」
「当然さ。僕にとって、大切な人たちだからね」
ルーナは耳まで真っ赤に染め、そっとイッセイの袖をつまんだ。
「……イッセイくんって、ほんと、罪な男だよね。もう、放してあげないかも♡」
クラリスも少しだけ頬を染め、咳払いしながら言う。
「……さすがですわ。わたくしの目に狂いはありませんの。イッセイ、今日のあなた、十点満点ですわ」
「……あ、ありがとう……?」
訓練の時間はまだ続いていたが、二人の少女の心は、すでに別の熱で高鳴っていた。
剣と魔法の修行、芽生える恋心、迫る武闘会――
学園生活は、ますますにぎやかになっていくのだった。




