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剣と魔法、そして戦いの予感

「次、アークフェルド。前へ」


陽光が差し込む石畳の訓練場に、澄んだ声が響いた。


「了解しました、先生」


僕――イッセイ・アークフェルドは木剣を手に、円形の闘技場の中央へと進み出た。

そして、その声の主を見上げ、思わず笑みを浮かべる。


「相変わらず凛々しいですね、セリナ先生」


「授業中に余計なことを言わない。……で、少しだけ嬉しそうにしないこともないわ」


セリナ・バレンティア。

僕の剣術の師匠にして、現在は魔法騎士学園の剣技講師。

端整な顔立ち、くせのないショートカット。鋭い視線の奥に熱意と照れを隠す人だ。


「相手は第三年のラウル。油断はするな」


「気を引き締めて行きます」


すでに対面に立っているのは、筋骨隆々とした上級生。

場数も鍛錬も重ねている、剣の強者だ。


だが、僕の中ではすでに勝負は決まっていた。


「始めッ!」


ラウルが吠えるように踏み込み、剣を振り下ろす――その動きが、見える。


《剣技:双牙の構え》から《流水斬》――


バシィッ!


風を裂くような音と共に、ラウルの剣が吹き飛び、観客がどよめいた。


「勝負あり!」


「な、なんだ今の動き……」「速すぎて、見えなかった……」


セリナ先生は腕を組んで、口元だけで呟いた。


「少しは“授業”に手加減しなさい。……いい動きだったわ」


「ご指導のおかげです」


「……ばか。そういうところ、ほんと困るのよ」


セリナは顔を逸らしたが、その耳が赤いのは見逃さなかった。



続いては魔法の授業。

場は移り、広大な中庭に設けられた訓練スペースへ。


「ではイッセイくん。次は《風球弾》から《加速術式》への連携を、見せてもらえるかしら?」


「承知しました、メルティ先生」


僕は礼儀正しく一礼し、空気中の魔力を収束させる。

詠唱なし、手のひらに風の塊が生まれ、それが三連の軌道で空を舞った。


その直後、足元に描いた魔法陣が輝き、加速を加えた第二波が命中。的は粉々に砕けた。


「ぴったりね。さすが“私の弟子”!」


メルティ・クラウゼル。

魔法の師であり、こちらも新任の講師。

ふわふわの銀髪に碧眼、柔らかく包み込むような雰囲気を持つ彼女は、普段はおっとりだが教えるときはとことん理論派。


「他の生徒も見習ってね~? ちゃんと魔法陣の構成、五行理論を意識してるのよ~?」


「はい、メルティ先生!」


「ちょっと、私もあれ真似していい!?」


「無理無理! あれ詠唱なしってレベルじゃないって!」


生徒たちはざわつきながらも、真剣に僕の魔法を観察している。

こうして、僕は“剣も魔法も出来る特待生”として、学園中で知られる存在となった。



授業が終わったあと、教室に戻る前にセリナ先生が皆を呼び止めた。


「諸君、来月末に行われる“王都連盟・武闘会”の説明をしておく」


ざわっ、と空気が変わる。


「この武闘会は、王都内外の騎士学園から代表選手を選出し、実技と魔法の総合競技で競い合う祭典だ。

優秀者には“王都騎士団”への推薦枠や、貴族叙勲もあり得る……つまり“出世街道”の登竜門といっていい」


(出世、か……僕にはちょっと縁遠い話かもしれないけど)


「今年は、我が学園が主幹校を務める。よって代表選抜戦は三週間後。覚悟しておくように」


「ふっふっふ……じゃあ、イッセイくんも“本気”を見せてくれるのかしら?」


メルティ先生がいたずらっぽく笑いかけてくる。


「……本気を出すと、ちょっと目立ちすぎませんかね」


「え、なにそれ。もう目立ってるわよ?」


僕はセリナ先生とメルティ先生の視線を受けながら、肩をすくめた。


(剣と魔法、それに護衛の三人――学園生活は始まったばかり。だけど、波乱の匂いがする)

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