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試練の風、裂かれる空路

 空を覆う巨大な渦は、まるで世界そのものが逆さに落ちていくような錯覚を与えた。

 方舟の周囲で竜巻がいくつも生まれ、雲を裂き、陽光を引き裂いていく。


「ひ、ひいいいっ……! こ、こんなの無理ウサ!」

 フィーナが両耳を押さえてしゃがみ込む。目の前の景色は、まるで天と地が逆転したかのようだった。


「フィーナ、しっかり! 今は動けないと飲み込まれる!」

 セリアが彼女の腕を引き起こす。


 その時、耳を裂くような風の悲鳴と共に、方舟の船体がギシギシと軋んだ。

「くそっ……風圧で軌道がぶれる……!」

 操舵輪を握るシャルロッテが額に汗をにじませる。


「ヴェイアの風印を最大に……! 逆風を切り裂くしかない!」

 イッセイが声を張り上げると、風精霊たちが呼応するように光を帯びる。

 方舟の船首に刻まれた精霊紋が淡く輝き、竜巻の中心に向かう突進が始まった。


「う、うわあああっ!」

 ミュリルが尻尾を膨らませ、欄干にしがみつく。

「下見んなにゃ! 目が回るから!」


 真下には、裂けた雲の隙間から遥か地上が覗いている。

 高さを思うだけで、足がすくむほどの距離だった。


「……こ、こんな場所で試されるなんて……」

 リリィは唇を噛み、隣のイッセイを見た。

「でも……負けないよね?」

「ああ。俺たちの旅は……ここで止まれない」


 その言葉に、彼女の表情が少しだけ和らぐ。


 渦の中心に近づくほど、風は暴力のように襲いかかってきた。

 身体ごと引きちぎられそうな圧力に、全員が船体にしがみつく。


「くっ……このままじゃもたない!」

 シャルロッテが叫ぶ。

「風王の力は、私たちを試している……通るなら、心をひとつにしろと!」


「心を……ひとつに……?」

 イッセイは胸に手を当て、深く息を吸う。

(怖い……でも、みんながいる。俺は――もう逃げない)


「全員! 俺の声に合わせて……風に応えろ!」

 その言葉に、仲間たちは頷く。


「――風よ! 俺たちは空を選ぶ!」

「空を……守るにゃ!」

「風に乗るウサー!」

「我ら、風と共に――!」


 魂が重なった瞬間、方舟の精霊紋がさらに強く光り、

 まるで風自体が味方したように、竜巻の壁に裂け目が走る。


「今だ、突っ込むぞ!」

 イッセイの叫びと同時に、方舟は光の矢のように渦の中へ飛び込んだ。


 竜巻の内部は、外よりもさらに異様だった。

 渦巻く風の柱が無数に立ち、上下の感覚すら狂う。


「うわ……空が……曲がって見える……」

 リリィが震える声を漏らす。


「違う……ここは、風王の心臓だ」

 イッセイは感覚で理解した。

 風そのものが呼吸をしている……そんな脈動が空間全体に満ちている。


 その時、不意に低い声が響いた。

――よく来た、選ばれし者たちよ。


「っ……!」

 全員が息を呑む。耳ではなく、魂に直接響く声。


「あなたが……風王……?」

 シャルロッテが震える声で問うと、風が笑ったように渦を巻いた。


――されど、強き者のみが空を支配する。示せ、お前たちの覚悟を。


 次の瞬間、内部の風柱が鋭い刃と化し、方舟を襲った。


「来るぞッ!」

 イッセイが剣を構え、仲間たちは各々の術式を展開する。


 風刃の雨を斬り裂きながら、方舟は渦の中心へ進む。

 心臓が破裂しそうな恐怖と興奮の中、イッセイは叫んだ。


「みんな――絶対に、空を守るぞ!!」

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