魔法騎士学園へ、ようこそ
王都の空は、高く澄んでいた。
「さあ、今日から新しい生活の始まりだ」
僕は学園の正門を見上げながら、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
巨大なアーチ門の先に広がるのは、整然とした石造りの校舎と、華やかに整えられた花壇。
歴史ある名門魔法騎士学園――そこには、貴族子弟や特例の功績者たちが集められている。
僕もそのひとりとして、今日この場所に立っている。
「……いよいよ、ですにゃん」
「ちょ、ちょっと緊張……するウサ」
「何を言ってるの。私たちは、ちゃんと護衛として振る舞うだけよ」
フィーナ、ミュリル、セリア。
三人は僕の“侍女兼護衛”として共に暮らし、学園にも同行していた。
屋敷と同様、男子寮の一室を僕の部屋として用意され、
同じ建物内に彼女たち専用の居住区も設けられている。
(まぁ……やりすぎじゃないかと思ったけど、父上の直談判だしな……)
ちなみに、メイド服から制服風に仕立て直した護衛衣装は、意外と似合っていて目立っている。
「――ねぇ、あれってアークフェルド家の三男じゃない?」
「マジで? 噂の“神童”だろ?」
「10歳でSランク実力って……チートすぎない?」
登校途中、ざわめきが僕の背中にまとわりついていた。
(目立ちすぎるのも困るんだけどな……)
そんな中、遠くから聞き覚えのある声が響いた。
「……まぁまぁ! イッセイ様ではありませんの!」
「お兄さん、待ってたよーん♪」
(えっ)
振り向くと、そこには馬車で助けたあの二人――
クラリス王女とルーナが、学園制服に身を包んで立っていた。
「先日は本当にありがとうございました。あのあと、ずっと話していたんですの。『あの方に、また会いたい』って」
「ねー、会えたね~。運命ってヤツじゃない?」
にっこり微笑んで手を振るルーナと、気品を保ちつつも頬を染めるクラリス。
「こちらこそ。まさかまたお会いできるとは思いませんでしたよ」
「これもきっと、神の導きですわね。……ですのに、まったく、ルーナったら……さっそく張り切ってお兄さん呼ばわりなど……」
「ふふ~、だってまたくっつけるし? 王子様って感じじゃん?」
「くっ、こ、この……!」
「まぁまぁ、お二人とも。今日は入学式ですよ」
僕は苦笑しながらも、再会の奇跡に少しだけ心が弾んでいた。
その日の入学式。
校庭に並んだ百名近い新入生の中、僕の名が読み上げられた瞬間、
どよめきが起こった。
「イッセイ・アークフェルド。入学成績、実技共に満点。先のワイバーン討伐、魔物掃討にて功績顕著。よって、特待生扱いとする」
(……やっぱり注目浴びすぎてるな)
壇上に立ち、学園長から叙勲の証書を受け取る。
そして目を合わせた瞬間、彼の口元がかすかに動いた。
「“楽しませてくれ”よ、転生者殿」
(――え?)
その言葉の意味を飲み込む前に、式は次へと進んでいった。
その夜。
男子寮の個室では、ミュリルがベッドの上でゴロゴロと転がり、
フィーナが窓の外を見ながら「主さま、今日もお疲れさまでしたウサ……」と呟いている。
「思ったより、注目されてるわね。油断は禁物よ」
セリアは冷静にそう言いつつ、手入れされた短剣を腰に戻した。
「……ありがとう。みんなのおかげで、無事に初日を終えられたよ」
僕は三人にそう言ってから、窓の外を見上げた。
(さて――始まったな、僕の“学園生活”が)