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空を裂く風、第三の目覚め

「視界、悪化中! 上空、乱気流レベル7!」


「風向き、また変わったウサ! 北西から回り込んできてる!」


「高度調整、微調整で対応する。前方に“裂け目”が見える――!」


イッセイの指示と同時に、風船船が大きく揺れた。

黒い雷雲が巻き上がり、空を裂くように走る閃光が、まるで“空の悲鳴”を描いていた。


そこは“空の裂け目”と呼ばれる領域――かつて空中戦争の爪痕が残された風の墓場。

その中心に、第三の神柱が眠っているという。


「……風の流れが変だ。これは……ただの自然現象じゃない」


セリアが眉をひそめ、肩にかけた短弓に手をかけた。


「感じるわ、何かが……呼吸してるみたい。風が、怯えてる」


ミュリルが震える声でそう告げたとき――

船体の外壁が、**ドンッ!**という重い音と共に大きく凹んだ。


「な、何かぶつかってきたウサ!? こ、これは……!」


「違う……外からじゃない。船の下層から……何かが……!」


船の床がきしむ。床材の隙間から、黒い“風”のようなものがうねり出てきた。


「この波動――“瘴気風”!? なんでこんなところに……!」


「まさか……神柱の眠る場所に“何か”が寄生している……?」


リリィが叫んだ瞬間、その黒風は渦を巻きながら空間を裂いた。

まるで“空の穴”そのものが意思を持ったかのように広がり、そこから――


「ギャアアアァァッ!!」


獣とも人ともつかぬ、耳を裂く叫び。

そして現れたのは、風に溶け込む異形の魔獣。


「……“虚風獣”……!? まさか、ここにもいたなんて……!」


シャルロッテの表情が蒼ざめる。


「この空間、もう安全圏じゃない。戦うしかないわ!」


「なら、やるだけさ」


イッセイが叫び、右手を掲げると――

神器《風を束ねる音叉》が淡い緑光を放った。


「リリィ、旋回しながら高度を保て! セリア、迎撃頼む!」


「了解っ!」


「任せなさい!」


セリアの矢が放たれ、音もなく“虚風獣”の片目を撃ち抜く。

しかし、倒れない。霧のような身体が再構築を始める。


「くっ、これ、普通の攻撃じゃ効かないウサ!」


「風の共鳴波……それが弱点かもしれない!」


「じゃあ、イッセイ君! 私が“歌う”ね!」


ミュリルが胸元の風鈴型アクセを鳴らし、精霊の歌を紡ぎ始めた。


「風よ、囁け……命のうた……空のゆりかごに、帰れ……」


その歌に応じて、神器が共振し、イッセイの音叉が強く共鳴する。


「――響け、風の導き!」


イッセイが音叉を振ると、船を中心に渦巻いていた瘴気が一気に晴れた。

“虚風獣”が苦悶の声をあげ、空中で四散する。


「やった……!」


「まだ終わってないウサ!」


リリィの声に応じて、雲の裂け目が大きく開いた。

そこに見えたのは――朽ちた神殿のような建造物。

その中心に、静かに眠る石像の少女がいた。


「……あれが……第三の神柱?」


シャルロッテがつぶやく。


「違う……まだ眠ってる。“あれ”じゃない、“中身”が本物だ」


イッセイが音叉を握り締め、目を細める。


「でもこの空間……まだ、何かいる……!」


まるで“試すような気配”。

風の流れがねじれ、再び異音が響く。


「来るよ!」


セリアが叫ぶと同時に――

神殿の天井が崩れ、巨獣のような影が飛び込んできた。


その姿は、まるで“風を食らう獅子”。

翼もなく、風を踏み台に空を駆ける異形。


風喰獅ふうしょくじしだ! 伝説の魔獣……空の食屍鬼!」


「この結界、あいつが守ってる……いや、神柱を“封じてる”のかも……!」


「だったら……壊すしかない!」


イッセイが立ち上がり、仲間たちを振り返った。


「行くよ、みんな! “空の未来”は、俺たちが奪い返す!」


「――ああ!」


風が、再び吹き始める。

それは、新たなる戦いの幕開けを告げる、“目覚め”の風だった――。

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