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プロローグ 森の出会いは運命の香り

「さて、そろそろ休憩しようか」


小鳥のさえずりと木漏れ日が降り注ぐ森の中。

僕――イッセイ・アークフェルドは、木陰で水筒の栓を開けた。

学園入学を目前に控えた今、日々の修行も最後の仕上げ段階だ。


(セリナ師匠から習った連撃技、あれはもっと繋ぎの速度が欲しい。メルティ先生の魔力制御訓練もあと数回は……)


そんなことを考えていた、そのときだった。


「――たすけてっ!」


甲高く、悲鳴が森に響く。


僕は反射的に跳ね起きると、気配を辿って茂みを走った。


開けた道に出たとき、すでに馬車は転倒していた。

魔物――甲殻に覆われた犬型のバジラウルフが三体、倒れ伏した兵士たちと、ひとつの馬車を取り囲んでいた。


そしてその馬車の傍で、かろうじて剣を構える少女。

流れる茶髪をポニーテールにまとめた、凛とした気品を感じさせる顔立ち。


その後ろには、紫髪の細身の少女が、ドレスを押さえながら彼女をかばうように立っていた。


(まずい、あと数秒も持たない――!)


「下がってください!」


僕は叫び、森を裂いて飛び出した。


一瞬の判断で巻物《氷棘の牢獄》を展開。

氷の槍が一斉にバジラウルフを串刺しにし、動きを止める。


剣を抜いた僕は、その間を縫うように魔物を斬り裂いた。


一息の間に、全てが終わった。


「……助かった、のですわね……?」


少女――いや、第三王女クラリスは、震える声で僕を見上げた。


「ご無事ですか、お二人とも。怪我は……?」


「わ、わたくしは……かすり傷だけ、ですの……あ、あなたは……?」


「イッセイ・アークフェルドと申します。通りすがりの……見習い剣士です」


「ふふ、通りすがりにしては、ずいぶん頼もしかったですこと」


そのとき、後ろの紫髪の少女――ルーナが口元を緩め、僕にぴたりと近寄ってきた。


「ん~、あなたってば、ちょっとカッコよすぎ。ねえ、ほんとに“通りすがり”?」


「……あはは、たまたま修行していただけですから」


「へぇ~。じゃあ、私たちに運命の出会いってやつかも?」


ルーナの指が僕の袖を撫でるように滑り、ちょっとだけくすぐったい。


「ルーナ、はしたないですわ。……けれど、わたくしも少し、気になりますの。あなたのこと」


クラリスが視線を逸らしながらも、頬をほんのり染めている。


(え……? なんだこの急展開)


僕は苦笑いしながら、二人を木陰へと誘導した。


「手が冷えていらっしゃる。こちらで温めます」


僕はクラリスの手をそっと包むと、彼女は目を見開いて――すぐに口を引き結んだ。


「……ぬ、ぬくもりを……その……ありがとう、ですの」


「ふふっ、クラリスってば、可愛い顔しちゃって」


「う、うるさいですわ、ルーナっ!」


一方、ルーナは僕の背中にぴたりとくっつきながら耳打ちしてきた。


「ねぇ……お兄さん。王都まで、送ってくれたりする?」


「もちろんです。怪我も心配ですし、護衛の代わりにお送りしましょう」


「やさしっ。じゃあ……その間、いーっぱいお話、してもいい?」


「……構いませんよ。たくさん質問されそうな気がしますが」


「ふふ、するよ。いーっぱい、ね」


その後の道中、クラリスは僕の出自や修行について熱心に尋ね、

ルーナはことあるごとに袖を引っ張ったり、僕の肩に顎を乗せたりと、自由気ままだった。


けれど、確かに――二人とも、心から安心した顔で笑っていた。


(こんな形で出会うなんて……世の中、何が起こるかわからないな)


そんなことを思いながら、僕は王都の城門を目指して、馬車を引いて歩いた。


その数日後。

魔法騎士学園の入学式で、ふたたび出会うとは――このとき、まだ知らなかった。

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