風の試練、継ぐ者の証
「来るぞ――構えろ!」
イッセイの号令と同時に、風柱シリルが宙を舞った。
その小柄な姿からは想像もできないほどの風圧が、神殿全体を包み込む。
「……見せて、あなたたちの“風”を。意志を、誓いを――力に変えてみせて」
「おう、言われなくてもやってやるわ!」
ルーナが地を蹴った瞬間、シリルの姿が消えた。
「っ! 速い!」
「上です!」
セリアが鋭く指差す。風の剣がルーナの頭上から突き下ろされる。
「甘い!」
ルーナはとっさに側転で避け、反撃の一閃を浴びせた――だが、風そのもののようにシリルは霧散し、背後に回り込んでいた。
「そこにゃ!」
ミュリルの猫の直感が火を吹く。
振り向きざまに魔導玉を投げつけ、風の流れを乱す。
「ちょっと、今のうちに位置測定ウサ!」
フィーナが空間の風位を解析し、シャルロッテにデータを送る。
「座標固定、成功。リリィ、加速シェル起動!」
「了解! ブースト全開! イッセイ、飛べる?」
「行くぞ!」
イッセイはリリィ特製の飛翔魔具で神殿空間の上層に躍り出た。
剣を構えたまま宙を走るその姿に、シリルの目が初めて揺れる。
「……風に逆らい、風を制しようとする意志。
でも、それは時に……風を壊すことにもなる」
「それでも、俺たちは“選ぶ”。風と生きる道をな!」
イッセイの剣が風を裂き、シリルとぶつかり合う。
風鳴と衝撃の中、シャルロッテが結界術を起動した。
「今よ! イッセイの“風の音叉”に、みんなの魔力を集中して!」
「了解にゃん!」
「……はい、ウサ!」
「っし、やってやろう!」
仲間たちの魔力が一本の音に収束し、イッセイの胸元の音叉が震え出す。
「この音は……共鳴……!?」
シリルの動きが止まった。その隙にイッセイは彼女の前に降り立つ。
「俺たちは、風を操りたいんじゃない。
風と共に、生きていきたいんだ――それが、俺たちの意志だ!」
「…………」
風が止まる。
静寂の中、シリルはゆっくりと目を閉じた。
「……見えたわ、あなたたちの“風”。
それはまだ未熟だけれど、確かに……継ごうとする意志がある」
風の剣が霧のように消え、少女の姿がやわらかな光に包まれた。
「私は、神柱。第二の風の守人として、汝らに力を貸しましょう」
イッセイは静かに頭を下げた。
「ありがとう、シリル」
「勘違いしないで。ただの試練通過者として認めただけよ」
「ツンデレか」
リリィがぽつりと呟き、フィーナとミュリルが吹き出した。
「む……?」
「シリル、あんた絶対ツンデレだわ」
「うんうん、そうにゃ~!」
「な、なによそれ……!?」
そんなやり取りに、緊張していた空間がやわらかくほぐれていく。
だがその時――
「……風が、変わった」
シャルロッテが顔を上げる。
神殿の外から、空全体の気流が逆巻くような気配が迫ってきた。
「これは……何かが、目覚めた?」
「まだ残り十柱……このまま進めば、“風王”も目を覚ますことになる」
シリルが静かに告げる。
「だがそのとき、この世界の空の秩序は……根本から変わる」
「……それでも、俺たちは止まらない」
イッセイの言葉に、仲間たちが力強く頷く。
「よし、次に行こう。
“空の未来”は、俺たちで選ぶ」
――そして物語は次なる神柱のもとへ。風の旅路は続く。