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逆流の祭壇、次なる扉

「見えてきたウサ……あれが、断風層の縁……!」


フィーナが船首から身を乗り出して叫んだ。雲が渦を巻き、空の色すら捻じ曲げるような不気味な空域。《南の断風層》は、まるで風そのものが逆流しているような異常空間だった。


「通常航行では進入不能……だが、この風印があれば──!」


シャルロッテが呪文を詠唱し、空中船の主翼に刻まれた《ヴェイアの風印》が淡く発光する。直後、暴風だった周囲の空気が、まるで潮が引くようにすっと和らいだ。


「すご……これが神柱の力か」


ルーナが感嘆の息を漏らし、ミュリルが尻尾を揺らしてにゃあと笑う。


「安心するにゃ~。でも気を抜くと飛ばされるにゃ?」


「それは勘弁願いたい」セリアが髪を抑えながら真顔で返す。


イッセイは風を感じながら目を細めた。


「確かに……風が“渦を描いて”いるな。ここだけ、流れの方向が違う」


「まるで、風が囚われているみたいだね」


リリィが静かに呟く。


――やがて、視界の奥に現れたのは、空中に浮かぶ巨大な石柱の残骸群だった。かつて神殿だったであろう構造物が崩れ落ち、重力も無視するかのように浮遊している。


「ここが……《逆流の祭壇》」


シャルロッテの言葉に皆が息を呑む。


「着地ポイント、確認完了。各自、対瘴気装備を展開して!」


セリアの号令で、イッセイたちは防御結界を展開しつつ、祭壇跡へと降り立った。


そこには、かろうじて崩れずに残っていた中央の“柱”があった。封印文様が走るその石柱には、読み取れる一節が刻まれていた。


「――《シリル》……これが、眠る神柱の名か」


イッセイが指でなぞると、封印が一瞬、淡く脈動した。


だがその瞬間、祭壇全体が不穏に揺れた。


「っ、これは……!」


突如、地面から黒紫の霧が噴き上がる。空気が変わる。重く、苦しく、肌にまとわりつくような不快な“風”。


「瘴気化した風ウサ! ここまで進行してたなんて……」


フィーナが結界を強化し、皆が防御態勢に入る。


そして、その霧の中心から、螺旋状の風を纏った“殻”が姿を現した。まるで空の卵を思わせるその形状が、バキバキと音を立てて割れ、中から巨大な獣が出現する。


「っ……これは、守護獣!?」


シャルロッテが警告を叫ぶが、獣は返事の代わりに突風とともに咆哮を放つ。


「来るぞ! 全員、迎撃陣形ッ!」


イッセイの号令とともに、戦闘が始まった。


ルーナが前線で魔法の盾を展開し、セリアが迅速に罠魔術で足止め。ミュリルが風の動きを読み取り、イッセイの位置を支援する。


リリィは空中を飛ぶ魔導具で回避しつつ、魔石弾を撃ち込んだ。


「やっぱり派手な方が目立つよね、精霊たち!」


その一撃で殻の一部が砕けると、獣は激しく動揺した。だが、戦闘は長引き、瘴気がさらに強まりはじめる。


「イッセイくん……もう限界かもウサ!」


「……くそ、何か打開策は……!」


その時、イッセイの脳裏に浮かんだのは、エリュアの言葉。


――“契約の歌と魂の共鳴”が、神柱を目覚めさせる。


「……歌、だと……!」


「歌うの? 今ここで?」ルーナが驚いた顔で言うが、イッセイは頷いた。


「やるしかない。リリィ、頼めるか?」


「え、私が!?」


「お前の声なら、きっと届く。俺が共鳴させる……!」


リリィは一瞬目を見開いたが、すぐに笑った。


「……任された!」


風の中、彼女が歌い始める。子守唄のように、優しく、でも芯のある音。


イッセイは《風を束ねる音叉》を高く掲げ、魔力を乗せる。


風が渦を巻き、瘴気を払い、祭壇の中心が淡く光を放ち始めた。


「これは……!」


その光の中、ひとりの少女が姿を現す。銀白の髪に風の紋を宿した、静かな目を持つ存在。


「……わたしは……シリル……十二神柱の、第二柱」


その声は、風そのものだった。


「我らを起こす者よ。風を紡ぎ、歌を響かせし者よ。……試練は、始まったばかり」


そう言い残し、彼女は再び光の中に包まれていく。


空が一瞬、澄み渡ったように明るくなった。


「……やったウサ」


フィーナの肩にそっと手を置き、イッセイは小さく頷いた。


「風は、まだ守れる。……次の柱を探しに行こう」


そして、物語は再び、風に導かれて次なる空へ――。

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