王都での謁見、そして学び舎への旅立ち「第一部:了」
飛竜討伐から数日が過ぎ、王都の空気にもようやく落ち着きが戻ってきたある日。
届いたのは、簡潔ながら重みのある一通の書状だった。
「イッセイ・アークフェルド殿、王城へ御登城を願います」
それは、努力と積み重ねの“成果”を示す招待状でもあった。
「やっぱり来たか……」
僕がそう呟くと、背後からぴょこんと耳が動く。
「しゅ、主さま、またエラい人たちとの会議ですウサ?」
フィーナが不安げに袖をつまんでくる。
「大丈夫だよ。ちょっと行って、話を聞いて帰ってくるだけさ」
「ん〜、なら……早く帰ってきて、なでなでしてくれたら……その、許すウサ……」
「ふふ、それは“ご褒美”みたいになってるけど?」
僕は苦笑しながら頭を撫でてやると、フィーナは顔を真っ赤にして跳ねるように下がっていった。
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王城の小謁見の間では、宰相の老紳士が厳かに告げた。
「飛竜討伐により辺境の安定へ多大なる貢献をなしたイッセイ殿に、名誉士爵の称号を授ける」
剣の柄が、僕の肩に静かに触れる。
「この国の未来に希望を灯す者よ、その志を忘れることなかれ」
「はい。僕は、この世界で出会った人たちと歩む未来を、大切にします」
そう誓い、僕は静かに頭を垂れた。
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夜。王都の宿舎に戻ると、仲間たちが笑顔で迎えてくれた。
部屋の中央には、豪華な食事と、僕のために用意された祝杯が並ぶ。
「イッセイ、おめでとう。……ほんとに、すごくなっちゃったね」
エリナはにこりと微笑みながら、優しくグラスを差し出した。
「でも……あんまり遠くに行かないでね? ずっと、そばにいたいの。今までみたいに」
「うん、エリナがいてくれるなら、どこでも“帰る場所”になるよ」
そう返すと、彼女はほんの少し頬を染めて微笑んだ。
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「ほ、ほんっとにすごいウサ! 主さまは、も、もう雲の上の存在に……!」
「いやいや、フィーナはその“雲の上”に一緒に来てくれてるよ?」
「~~っ! そ、それは……そばにいられるってこと……ウサよね……」
袖をぎゅっと握る指先が、微かに震えていた。
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「主! すごいにゃん! えへへ、さすがにゃん!」
ミュリルは勢いよく飛びついてきた。
「でも……えへへ、これで主がモテモテになっちゃったら、ミュリル……やきもち、焼いちゃうにゃん?」
「ミュリルには、ちゃんと“特別なポジション”あるよ。護衛で、癒しで、甘え役?」
「えへへっ♪ それ、全部ミュリルの役なのにゃん!」
僕の首に腕を絡めてくる彼女に、軽く苦笑するしかなかった。
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「ま、アンタが表彰されるくらいは当然よね」
セリアはツンとすましてグラスを掲げる。
「でも……さ。アンタって、やっぱりちょっとかっこよかったから……認めてあげるわよ」
「ん? ちょっと、今“かっこよかった”って……」
「べ、別に! そ、そういう意味じゃないから! 深く考えるなバカ!」
急に早口になって目を逸らすセリアに、みんなが笑い声を上げた。
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宴の終盤。師匠たちも顔を見せてくれた。
「おーいイッセイ、これで“師匠超え”までもう一歩ってとこかしらね?」
セリナが肘で僕の背を小突く。
「でもまだ、あたしたちと一緒にいた頃の“未熟さ”は忘れないでよ。謙虚さも、剣の強さよ」
「はい、忘れません。セリナさんの背中、いつまでも追いかけていたいです」
「ふふ……そんなこと言われたら、つい甘やかしたくなっちゃうじゃない」
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「イッセイ、君の成長は素晴らしいわ」
メルティが優雅に笑う。
「でも、これからの学び舎では、政治や人間関係も学ぶことになるわ。剣や魔法以上に、時には厄介かもね」
「わかっています。けど、知識なら……僕、わりと得意ですし」
「……うん。じゃあ期待してる」
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そして翌朝。
ギルド支部で僕を待っていたのは、学園への推薦状と――
「フィーナ、ミュリル、セリア、三名はあなたの“侍女兼護衛”として、学園寮で共に生活することが許可されました」
という通知だった。
「やったにゃん!」「主さまといっしょ……うれしいウサ……」「……仕方ないから、一緒にいてあげるわよっ」
そんな声を聞きながら、僕は静かに思った。
――これから、きっといろんなことが待っている。
だが、僕はもうひとりじゃない。