王都帰還と広がる噂
飛竜討伐の任を終え、僕たちは王都へ戻ってきた。
正直なところ、「おつかれさま」程度の扱いを想定していたのだけれど――
「イッセイ様ご一行、凱旋でありますッ!!」
「きゃー! 本当に討伐したんだって!」
「見たわよ!飛竜の首をギルドが飾ってた!」
想像以上の大騒ぎだった。
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「なんでこんなに騒がれてるんですか……?」
僕の問いに、セリナが腕を組んで肩をすくめる。
「アンタ、飛竜がどれだけ危険視されてるかわかってないでしょ。しかも、それを“十代の貴族の三男坊”が討伐したってなると、そりゃもう話題よ」
「しかもちゃんと、仲間に指示して、巻物も使いどころが完璧。見てた人たちが褒めちぎってたわよ」
メルティが微笑みながら、褒めるというよりは“現実を伝える”ような口調で言った。
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ギルドでは表彰と報奨金、王都では記録官からの報告要請。
商会のリリィも、なぜか妙に浮かれた声で報告してきた。
「ねぇねぇ! ウチの商品の売上、討伐後に一気に跳ね上がってるよ!? “あの飛竜を倒した若き騎士が使ってる”って、噂になってるみたい!」
「勝手に騎士にされてる……?」
「細かいことはいいのっ。これ、ビジネスチャンスよ!」
リリィは目を輝かせ、僕の袖を引っ張る。
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その日の夜、王都の宿の一室で。
窓の外には、祝賀の余韻を残すような光の筋がきらきらと走っていた。
「……ねぇイッセイ。こんなに注目されるって、どう思う?」
「うーん……ちょっと居心地が悪いかも。でも、嬉しくないわけじゃないよ」
「そっか。……ならいい」
リリィはぽつりとつぶやいた。
「あなたがすごくなっていっても、私はあなたの“商会の相棒”だから。ちゃんと隣にいられるように、頑張らなきゃ」
僕はその言葉に、少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
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だが――
翌朝。
「侯爵家三男、飛竜討伐の少年が“王の密使候補”として議題に上がっているとの噂です!」
ギルドの掲示板には、見出しのような書き込みが踊っていた。
貴族社会が、僕たちに――いや、僕自身に、ゆっくりと目を向け始めていた。