旅の終わり、再び異世界へ②
まばゆい光が収まったとき、イッセイたちは――元の世界へと戻っていた。
目の前には、いつもの青空と草の香り。そして、見慣れた王都郊外の丘陵地帯。
「……ただいま、ってことか?」
イッセイがそう呟いた瞬間、誰よりも早く飛び上がったのは、フィーナだった。
「かえってきたウサあああああっ!! ああもう! タピオカも美味しかったけど! やっぱこの空気! この風! この土の香りぃぃぃぃぃぃっ!!」
耳をぶんぶん振り回しながら、全力で芝生にダイブ。
「うわ、ちょっ、おいフィーナ!」
「草まみれのうさぎ、ここに爆誕ですにゃ……」
ミュリルが呆れたように言いつつ、隣で土の匂いをくんくん嗅ぎ始める。
「……異世界の土、やっぱりしっくりくるにゃあ」
「人間の発言じゃない……」
セリアはハンカチを口元に当て、眉をひそめながら周囲の清潔チェックに余念がない。
「フィーナ、すぐにお風呂に直行だ」
「ええー! せっかく自然と一体になったのにぃ〜」
「“自然”と“不潔”は別だッ!」
一行の掛け合いは、いつも通りの調子に戻っていた。
王都へ戻る途中、遠くに見えてきたのは、あの――巨大なスライムの像を模した温泉施設。
《スライムスパランド・ぷるぷる本店》。
「……おかえり、我が城よ」
リリィが満面の笑みで、両腕を広げる。
「心配かけたウサ! でも安心するウサ! ぷるぷるは永久に不滅ウサ!」
「わけわからんが、お前が元気ならそれでいい」
イッセイは思わず苦笑しながら応じた。
施設に戻ると、従業員たちが涙目で迎え入れてくれた。
「ぷるぷる支配人! おかえりなさい!」
「やっぱりリリィさんがいないと回らないっす!」
「泡のクオリティが落ちてたって、お客様からクレームが……!」
「待たせたウサ! 今日から泡を全面強化するウサ! “令和泡革命”の始まりウサ!」
「いやいや、そこは“アルセント泡新時代”でしょ」
ツッコミと笑いが飛び交うなか、スパランドは再び息を吹き返していた。
* * *
その夜――。
スパの屋上庭園で、イッセイは夜空を見上げていた。
星の輝きは、日本で見たものとはまるで違う、けれどどこか懐かしい。
「……また戻ってこれたな」
隣にクラリスとルーナが並んで座る。
「少し、寂しかったわ。現代日本……あれはあれで楽しかったけど」
「うん。アニメと現実の境界がよくわからなくなったけど……楽しかったわね」
イッセイはゆっくりと頷いた。
「でも、やっぱり俺は――この世界が好きだよ」
ふいに、リリィの声が響いた。
「だからこそ! 明日から“世界泡拡張計画”スタートウサ!」
「まだそれ言ってんのかよ!」
一同が突っ込みを入れながら、笑いに包まれる。
そして、シャルロッテが最後に静かに言った。
「今回の経験は、記録としては残らないかもしれない。でも、私たちの心には、ずっと刻まれる」
「……ああ、そうだな」
イッセイは深く頷き、夜空を仰いだ。
もう一度、この世界で。
もう一度、未来を歩いていく。
そんな確かな想いを胸に――新たな旅の幕が、音もなく上がっていた。