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東京スカイツリー防衛戦②

「来るぞ……!」


 イッセイが《精霊剣リアナ》を構えた瞬間、ゲートの裂け目から現れた巨大な魔物が、空中を引き裂きながら降下してきた。四つの腕、黒き鱗、紫に輝く瞳――まさに異界の使者と呼ぶにふさわしい禍々しき存在。


「見た目は最悪だけど……ぶっ飛ばす価値はありそうね!」


 クラリスが風のように舞い、光の剣で魔物の片腕を斬り裂いた。その一撃は確かに通じたが、魔物はたちまち再生し、瘴気を撒き散らして反撃に出る。


「おいおい、ゾンビ機能まであるのかよ……!」


 イッセイの苦笑を吹き飛ばすように、後方から魔力の奔流が走る。


「泡・全開ウサーーーー!!」


 フィーナが叫ぶと同時に、彼女が展開した“癒しの泡”が一気に展望フロアを包み込んだ。《ヒーリング・スライムバブル》――その泡はダメージを負った仲間の身体を回復し、瘴気を中和する聖なる泡となった。


「さすがはぷるぷるアイドルにゃ……!」


 ミュリルが泡に乗って飛び、空中戦で魔物の視線を引きつける。セリアは即座に魔導結界を構築し、仲間たちの足元を固めた。


「この戦闘領域、汚させないウサ」


「いや、そっちじゃないだろ! もっと戦略的にだな!」


 ツッコミを入れながらも、イッセイの指揮は冴えていた。戦いの中で、彼の背には、ひとつの確信が芽生えていた。


(この“門”――リアナの力が反応してる。やっぱり、これは異世界と繋がる“未完成の縁”だ)


 それを断たなければ、未来はない。


 その時――。


「イッセイくん、あれを見て!」


 シャルロッテが指差した先。ゲートの中央に、小さく光る核のようなものが浮かんでいた。


「あれが、結節点……!」


 ゲートを閉じる鍵。魔物たちがそれを守るように位置している。


「みんな、あれを叩く! 俺が行く! フォローを頼む!」


「了解ウサ!」


「にゃふ!」


「はい、結界固定します!」


 イッセイは跳躍した。《命の継承者》の名にふさわしく、彼の剣は精霊の力を纏って輝き、飛び散る瘴気を薙ぎ払ってゆく。


「――リアナ、見ていてくれ」


 イッセイの身体を、光の粒が包んだ。精霊たちの祈りが剣に込められ、刃が蒼く輝く。


「この世界を、“未来”を――守る!」


 渾身の一撃。《精霊剣リアナ・終式ファイナル》が、ゲートの結節核を貫いた。


 ――刹那、閃光が走る。


 衝撃波がスカイツリーの最上階を包み、魔物たちが叫び声とともに光の中へと消えていった。


 ゲートは、ゆっくりと――音もなく、閉じていった。


* * *


「……終わった?」


 息を切らしながら、ルーナがイッセイの隣に腰を下ろす。東京の空は、ようやくその青さを取り戻していた。


「うん。これで、しばらくはゲートも開かないはずだ」


 イッセイがそう言うと、クラリスが一歩前に出て、高く掲げられた展望フロアから下界を見下ろした。


「……この街、綺麗ね」


「異世界と違って、建物はまっすぐだけど、空気は同じだったな」


 ミュリルが肩に乗りながら呟き、フィーナが手を広げて深呼吸する。


「空も泡も、ウサは大好きウサ」


 どこか遠い、夢のような時間だった。


 けれど。


 戦いのあとに残るものは、確かな希望だった。


* * *


 夜。


 イッセイのマンションのリビングで、リリィが転移装置の計器を確認していた。


「魔力、チャージ完了ウサ!」


「明日には、帰れる……か」


 どこか名残惜しそうに呟くイッセイの横で、仲間たちが次々に“お土産”の袋を抱えていた。


「東京バナナは外せないにゃ」


「このマッサージチェア、王都でも売れますかしら?」


「この“しょうゆラーメン”っての、持ち帰れないの?」


「イッセイくん……もう一回だけタピオカ行ってもいい……?」


 騒がしい。けれど温かい。


「……帰ったら、泡風呂でも入るか」


「うん」


 その言葉に、仲間たちが一斉に頷いた。


 そして――。


 転移装置が再び、静かに起動音を立てた。

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