現代日本満喫スローライフ！②
「た、高い……！ これが“スカイツリー”ウサか……！」
「にゃふふ～、この高さ、まさに天空城にゃ！」
「風、気持ちいいな。……でも、なんか変な空気……」
スカイツリーの展望台――。東京の地平を一望できるその場所に、異世界組は揃って訪れていた。今日の観光先は「天空に最も近い現代文明の塔」。それを聞いたクラリスが「絶対行くわよ！」と即決したのが発端だった。
展望ガラスにへばりつくミュリルを引き剥がしつつ、イッセイは遠く霞む地平線を眺めていた。
「なあ……ルーナ。この空、少し……濁ってないか？」
「うん。イッセイくんも感じた？ なんか……“魔力”っぽい感覚が、うっすら漂ってる気がするの」
「この世界には、そもそも魔素がないはずだ。けど、ここ最近……地脈の流れが、微かに“動いてる”」
イッセイは拳を握る。現代日本にあるはずのない感覚が、確かにそこにあった。微細なものだ。だが、それは確実に“異世界の気配”だった。
＊ ＊ ＊
一方、展望台のカフェでは、フィーナとセリアがケーキセットに舌鼓を打っていた。
「この“抹茶モンブラン”、最高ウサ～！ リリィちゃんにお土産で買って帰りたいウサ！」
「このテーブル、水平率99.8％……合格です」
「判断基準そこなの！？」
と、そんな和やかな時間を破るように、展望窓の外――空に微かな“ひび”が走った。
「……えっ？」
クラリスが最初に気づいた。澄み切ったはずの空に、淡い紫の光線が蜘蛛の巣のように走る。
「ちょ、ちょっと待って、あれなに！？ 空が……割れてる！？」
目を凝らしたシャルロッテが、鋭く声を上げる。
「魔力収束現象……いえ、それだけじゃない。空間の位相が……“開きかけて”いる？」
「まさか……ゲート？」
その言葉に、全員の表情が強張る。
そして――その瞬間だった。
スカイツリーの天辺近く。空に浮かぶ淡い裂け目が、一瞬だけ“開いた”。
そこから覗いたのは、まるで異世界のような赤い空。そして、いくつかの黒い影。
「――ッ、出るぞ！ 魔物だッ！！」
イッセイの叫びと同時に、裂け目から飛び出してきたのは、獣とも虫ともつかない異形の存在。巨大な甲殻と牙を持ち、紫の瘴気をまとったそれらは、スカイツリーの外壁に張り付き、ガラスを割って侵入してくる。
「きゃあああああッ！！」
悲鳴が響く。観光客たちはパニックに陥り、逃げ惑う。
「ルーナ！ クラリス！ 先に避難誘導を！ ミュリルとセリアは周囲の警護、フィーナは“結界”だ！」
「了解よ、イッセイくん！」
「急ぐわよ、姫様っ！」
「わ、わかったわ！ こういうときこそ、王族としての冷静さを……っ！」
異世界の冒険をくぐり抜けてきた少女たちが、いま――この“東京”で、人々を守るために動き出す。
＊ ＊ ＊
一方で、イッセイはスーツの内ポケットから“精霊石”を取り出していた。
「こいつを使えば……短時間なら、魔力の放出ができる。魔法回路はこの世界じゃ不安定だが……！」
瞬間、彼の手の中に光が集まり、淡く輝く剣の形を成す。
《精霊剣・リアナ》
異世界から持ち込まれたその剣が、現代の空に光を放つ。
「行くぞ……異世界の混沌が何をもたらそうと、今は――この世界を守る！」
そして、戦いは始まる。異世界と現代日本が重なり合う、その裂け目の狭間で。
