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さらば異世界、こんにちは表参道①

「……準備はいいな? これより《転移装置》を起動する」


 イッセイの声に、三人の高校生たち――アキト、ユイナ、マコが頷く。


 ここは帝国領の最西部、《星降りの台座》と呼ばれる古代転移遺跡。転移結晶をセットし、魔力充填を終えた装置は淡く青白い光を放っていた。


「よし、スイッチ、オンっす!」


 アキトの叫びと共に、装置が光を放ち始めた。回転する魔導陣が地面に広がり、次第にその輝きは空間ごと包み込むほどに膨れ上がっていく。


「すごい……!」


「マジ、眩しっ! っていうか風! 髪の毛ぺったんこになるんだけどー!」


 マコの金髪がばさばさとはためく中、ユイナは冷静に目を閉じ、イッセイへと一礼を送った。


「本当にありがとう。あなたたちのおかげで、私たちは――」


 その瞬間だった。


 ――ボウッ!!


 装置の輝きが突然激しさを増し、まるで魔力が暴走したように周囲の空間が歪んだ。


「これは……魔力がっ、膨張してる……!? 退避しろッ!!」


 イッセイの警告も虚しく、光の奔流が一気に拡大し、そこにいた全員を――イッセイ、クラリス、ルーナ、サーシャ、フィーナ、セリア、ミュリル、シャルロッテ――全員を包み込んでいった。


 そして次の瞬間。


 ――どこまでも深く、どこまでも遠く。

 あらゆる魔力の流れが交錯し、重力も、時間も、境界も消え去るような光の渦の中で。


 彼らは、跳んだ。


* * *


 ――ピッ、ピッ、ピッ。


「ん……」


 イッセイがゆっくりとまぶたを開けると、見慣れた天井があった。


 白いクロス張り、間接照明、エアコン、そして――


「……テレビ、あれ、リモコン? ここは……表参道の、俺の部屋……?」


 彼は勢いよく起き上がり、リビングのガラス戸を開け放つ。


 ――目の前に広がっていたのは、東京の夜景。表参道ヒルズの一角、12階の高級マンション。そのバルコニーから見える風景は、かつて彼が暮らしていた“元の世界”だった。


 と、後ろで何かがゴソゴソと動く音がした。


「……イッセイくん……? ここどこ、なの?」


 クラリスが眠たげに立ち上がる。続いてルーナ、リリィ、フィーナ、ミュリル、セリア、シャルロッテ、サーシャ――全員が目を覚まし、次々と室内を見渡しては、ぽかんと口を開けた。


「わ、わ、ウサ!? 天井が白いっ!? 木じゃない!?」


「にゃ……なんか、空気が薄いけど……いいにおいがするにゃ」


「ここはどこなんだウサ!? 魔力の気配が……薄すぎるっウサ!!」


「ま、待って!? あの透明の箱、なんか光ってるわよ!? ……何あれ、冷蔵庫!? コールドゴーレムの一種!?」


「落ち着いてください皆さん! とりあえず水源を確保しましょう、念のためトイレの位置を確認――」


「セリア、戦時体制モード入らないでッ!」


 リビングは一瞬にして、異世界パニック劇場となった。


「……これが、現代の日本か」


 シャルロッテが静かに窓際に立ち、ガラス越しに高層ビルのネオンと車のヘッドライトを見つめる。


「やっぱり……魔導都市アルセントを超えてるわ。こっちが“現代文明”ってやつね」


「すごいにゃ……人間、ここまで進化してたのにゃ……」


 感動に震えるミュリルの耳がぴょこぴょこと揺れる中、リリィは一人、床に埋もれていた《転移装置》の破片に目を止めた。


「……動いてないウサ。……魔力、ゼロね」


「一応調べてみよう。こいつの仕組みは見覚えがある」


 イッセイとリリィが装置に手をかざすと、淡く反応した魔力の痕跡が浮かび上がる。


「……やっぱり。魔力切れだ。再充填に、少なくとも一ヶ月はかかるな」


「つまり……それまで、この世界に滞在ってことね」


「おお、なんかワクワクしてきたウサ! じゃあさっそく、探索しよう探索!」


「待てウサ! まずは服装を整えようウサ! この世界では下着姿で街に出ると通報されるウサ!!」


「……ミュリル、ルーナ、セリア、みんなストップだにゃーッ!! 勝手に扉を開けるなにゃッ!!」


 そして、リビングのテレビが突然つく。


《――現在、東京地方は快晴です。交通情報によりますと、表参道通りは現在も混雑――》


「しゃ、喋った……箱が……喋った……!!」


「しかも未来予知!? これが、この世界の神託装置……!」


「違う違うテレビだからッ!!」


* * *


 ――こうして、異世界組による、現代日本“表参道ライフ”が、波乱の幕を開けたのだった。

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