表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/191

転移者たちと結晶探しの共闘②

 《リュミエール旧機構》の内部は、想像以上に広大だった。


 苔むした石壁、天井を走る魔導導管、朽ちた階段と瓦礫。かつての魔導文明の息吹が残るこの場所は、今もどこか呼吸しているような、そんな不思議な空気を纏っていた。


「わっ、なんか薄暗くてゲームのダンジョンみたいだね……」


 マコがビクビクとイッセイの背中に隠れながらつぶやく。


「これは魔素が濃いせいだ。生物の活動が抑えられてる。……でも気を抜くな、トラップや魔獣が出る可能性はある」


 イッセイが冷静に警告を与えると、アキトが拳を握りしめた。


「大丈夫っす。こういうの、アニメとかで見てきたんで!」


「見るのとやるのは違うにゃ。……でも、いい目してるにゃ」


 ミュリルがニヤリと笑い、猫耳をピクリと動かす。後方では、セリアが何やら紙束を持ってブツブツ言っていた。


「契約書……魔獣に襲われた場合の免責事項……搬送費用……破損物に関する再建税……」


「セリアさん!? ここで帳簿開くのやめてくれる!?」


 リリィが額に手を当て、突っ込む。和やかさと緊張がないまぜになった探索の最中、ユイナの瞳が鋭く光った。


「……反応あり。東側、第二動力室。魔力の揺らぎがあるわ」


 導かれるように一行は通路を進み、やがてたどり着いたのは、球状の魔導炉が眠る部屋だった。そこには――


「これは……《転移結晶》!」


 クラリスが声を上げる。青白く光る巨大な結晶が、封印の中で淡く脈動していた。


「やった! これで……これで日本に帰れる!」


 アキトが思わず叫ぶ。その隣で、ユイナも一瞬だけ顔を綻ばせた。


「……まだよ。これを取り出すには、封印解除と魔素の安定化処理が必要。下手に触れば暴走するわ」


「じゃ、解除しよう。イッセイくんの出番ね!」


「いや、今回は違う」


 イッセイが一歩下がり、手のひらでユイナを示した。


「君がやってみてくれ。……これは君たちの未来に必要な結晶だろう?」


「……っ」


 ユイナの目が一瞬だけ大きくなり、やがて真剣な表情に変わった。


「わかったわ。やってみる」


 彼女は装置に近づき、静かに呪文を紡ぐ。目の前の結晶が、まるで応えるように光を放ち始めた。


 その光景を、イッセイは少し離れた場所で見守っていた。


「なんかさ、イッセイって本当のお兄ちゃんみたいっすね」


 アキトがふと漏らす。


「……本当の、か」


 イッセイの目が一瞬だけ遠くを見た。それは前世の記憶――現実世界での孤独な時間、そしてこの異世界で得た“家族”のような絆。


 その時だった。


 ゴゴゴゴ……ッ!


 突如、床が揺れ、部屋の奥の壁が崩れた。


「くっ、魔獣か!」


 瓦礫の隙間から現れたのは、半透明の粘体――巨大な“転移スライム”だった。青白い体に、転移結晶と同じ波動が宿っている。


「こいつ……結晶を喰って魔素を溜め込んでやがる!」


 イッセイがすぐさま剣を抜くが、それよりも早く、前に飛び出したのは――


「いっけえええええっ!!」


 アキトの跳躍。鍛え抜かれた肉体が、スライムの中心部へ一直線に拳を叩き込む。


 ――ドンッ!


 スライムの身体が大きく歪み、魔素が霧のように霧散した。


「ナイスにゃー!」


「ウサ、アキト、やるウサね!」


 仲間たちの声と共に、暴走する魔素が静まり、やがて結晶が完全な姿を現した。


「成功ね……結晶、取り出せるわ」


 ユイナが小さく頷く。


「よかった……!」


 マコが涙を浮かべながら結晶を抱きしめ、ぐしぐしと目をこする。


「これで……帰れるんだね……」


 その瞬間、遺跡の天井にぽっかりと光が差し込んだ。それは、彼らの希望を照らすような――未来への光だった。


* * *


 帰還のための結晶を得た高校生たちと、彼らに手を差し伸べたイッセイたち。


 だがこの出会いが、ただの通過点ではなく、運命の歯車を動かす始まりだったことを――この時、誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ