転移者たちと結晶探しの共闘①
王都の初夏は、いつもより少しだけ風が湿っていた。
冒険と戦いの数々を越えたイッセイたちは、久々の平穏な日々を味わっていた。とはいえ、完全なスローライフとは程遠い。王城からの呼び出し、貴族との謁見、商会の視察、そしてルーナによる毎朝の魔導式訓練。そんな折、ギルド本部に現れた三人の“異邦の来訪者”によって、再び日常は揺れ動き始める。
「……というわけで、俺たち、帰りたいんです。元の世界に」
ギルドの応接間。長身で精悍な顔立ちの少年が、真っ直ぐな目でそう言った。黒い短髪に軽装の旅服。彼の名は――
「綾瀬アキト、高校二年。……たぶん、転移してから一ヶ月半ぐらいです」
彼の隣に立つのは、落ち着いた雰囲気を纏う、ストレートの黒髪が印象的な少女。
「桐原ユイナ。同じく高二。アキトとはクラスメイト……というか、理科室で一緒に吹き飛ばされました」
「で、ギャル枠の高梨マコでーす☆ てかマジ、転移とかパねぇよねー、どしたら帰れんのコレ?」
金髪のポニーテールに、目立つアクセサリーと陽気な口調。三者三様ながらも、不思議なバランスで成り立つ高校生トリオだった。
「……帝国の西にある転移装置には、特殊な“転移結晶”が必要なんです。けど、帝国では枯渇してて……」
ユイナが地図を広げ、細やかなルートを指し示す。その手つきは明快で、知性が宿っていた。
「それなら心当たりがある。古代魔文明の遺跡《リュミエール旧機構》……あそこなら、未発掘の転移結晶が残っているかもしれない」
イッセイがそう口にすると、クラリスとルーナが同時に頷いた。
「前に調査したときは深層部が崩れていて、進めなかったけど……あの時と今とじゃ、私たちの力は段違いだよ、イッセイくん!」
「ふふ、異世界の高校生たちと一緒にダンジョン探索なんて、ちょっとわくわくしますわね」
こうして、再び始まる冒険――目的は、若き転移者たちの“帰還”のために。
* * *
遺跡《リュミエール旧機構》の入り口は、王都郊外の断崖に隠されていた。かつては魔法研究の要だった場所だが、今は魔力障壁によって封鎖され、誰も寄りつかない。
「うおっ……マジでダンジョンじゃん」
「……構造体、古代のエーテル伝導式ね。あの柱、魔素を誘導してる」
「きゃー! マコここ絶対ムリなやつぅ! 暗いし虫いるしコケて服汚れるし~!」
アキトが興奮し、ユイナが冷静に分析し、マコは早くもテンパり始める。そんな三人を、ミュリルとフィーナがやや困った顔で見守っていた。
「にゃん……この三人、うるさいけど悪い子じゃないにゃ」
「ウサ。きっと、“帰りたい”って気持ちは本物なんだウサね」
「よし、まずは障壁解除からだ」
イッセイが魔導式の円環を展開し、古代呪文を詠唱する。すぐに魔素が流れ、石扉が鈍い音を立てて開いた。
「行こう。転移結晶は、たぶんこの先にある」
かくして、転移者たちとイッセイ一行による、時空を越えた共闘が幕を開けたのだった――。