飛竜と叫びと、少年の決断
王都から南へ三日。風の音すら鋭く感じる辺境の村に、僕たちは到着した。
「飛竜の影を見た、っていうのは確かですか?」
ギルドの依頼状を見せると、出迎えた村長が疲れ切った顔で頷いた。
「三日前からです。夜になると、空に巨大な影と咆哮が……家畜も失踪し、皆おびえておりまして……」
「ご安心ください。これより僕たちが対応します」
真っ直ぐにそう言うと、背後から剣の師匠・セリナが小さく笑った。
「ほう。もう『僕たちが』なんて言えるようになったんだ?」
「頼もしくなったよねぇ、イッセイくん」
魔法の師匠・メルティも、にこにこと頷いている。
⸻
夜。空に、唸るような風音が走る。
「来た!」
飛竜が夜空を裂いて現れた。畑地に向かって急降下。
「フィーナ、警報を! ミュリルは左翼から! セリア、詠唱開始!」
「はいウサ!」「主、任されたにゃん!」「了解よっ!」
僕は即座に魔法巻物《氷棘の牢獄》を展開し、飛竜の翼を凍てつかせる。
「ギャアアァッ!」
片翼を失った飛竜が、木立に激突して体勢を崩す。
「セリナさん、メルティさん! 一気に畳みかけてください!」
「了解!」
「行くわよ、イッセイ!」
⸻
セリナの剣が火花を散らしながら飛竜の爪を受け止める。
「重たい! けどこれくらい、慣れたもんよ!」
その背後から、メルティが詠唱を終えた大規模魔法を空中に展開。雷が雨のように飛竜を打ちすえる。
その間にも仲間たちが奔走する。
ミュリルは俊敏な動きで足元をかき乱し、
フィーナは耳で飛竜の動きを先読みして回避と回復を担当、
セリアは詠唱完了とともに《スカーレット・スピア》を心臓に向けて正確に放つ。
「今だッ!」
僕はチュートリアルソードに魔力を集中し、胸元へ一直線に跳躍した。
――バシュッ!
飛竜が、巨大な体を引きずるようにして、ついに崩れ落ちた。
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「やったウサー!」「討伐完了にゃん♪」「ふ、ふん。指示がマトモだったから助けてあげただけよ!」
皆の声が、戦場に暖かさを戻していく。
「……イッセイ」
メルティが、まっすぐ僕を見た。
「初めて“戦場の中心”に立った気分、どうだった?」
「……重たかったです。でも、皆が動いてくれたから……僕はただ、皆を信じただけです」
「それが“指揮”ってやつだ。上出来よ」
セリナが肩をぽんと叩いた。
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辺境の村を守った一夜。
僕は初めて、本当の意味で“仲間と戦った”と感じた。
この先、まだまだ試練は続くだろう。
でも、きっと――
「この仲間たちとなら、どこへでも行ける気がする」
その確信が、静かに胸を熱くしていた。