泡と笑顔とその先に② それぞれの道、そして“次”の商機へ
感謝祭の夜。泡に彩られた王都スパ本店は、まるで幻想の城のように輝いていた。
リリィはステージの袖で、満面の笑みで踊るフィーナの姿を見守っていた。泡まみれのチア衣装で、「ぷるぷる音頭・2025泡リミックス」を踊り切ったフィーナは、決めポーズと共に飛び跳ねる。
「ウサーッ! みんな! 次は“スライムリゾート列車”を走らせるウサよーっ! 走る列車で泡風呂! 温泉郷巡り! 車掌はもちろん、わたしウサー!」
観客の笑い声と拍手が混じる中、リリィは顔を覆って小さくうめいた。
「……それ、どこまで本気ウサ?」
「80パーセントかな」
横にいたミュリルが、カリカリと泡だらけの耳を拭きながら答える。衣装はすでに風呂あがりのような浴衣姿になっていた。
「……わたしは、ちょっと休みたいにゃ。なんかね、泡のあるところでまた会える気がするから。それまで、のんびり旅に出るにゃ」
「え、えっ、ミュリルちゃん……!」
「また会おうにゃ」
ミュリルは泡のように軽く笑って、すっと夜の帳に溶けていった。
「……私も、伝えておかなければなりません」
堅い声と共に、セリアがやってきた。手には分厚い契約書の束。
「国際展開に向けて、各言語対応の泡商品ライセンス契約書を整備しました。これで20カ国語です」
「そんなに!?」
「当然です。ちなみに、王都方言にも対応済みです」
「いや、いるそれ!?」
リリィは思わず突っ込んだが、セリアは微動だにせず小さく一礼した。
「私は――次の契約地へ向かいます。さようなら、ぷるぷるの女神」
夜風と共に、彼女もまた姿を消していく。
静けさの戻ったバルコニー。そこにイッセイが現れた。ふたりは泡の灯りの中で、しばらく無言のまま、王都の夜景を見下ろしていた。
「……みんな、行っちゃったウサね」
「ああ。でも、それぞれの道を見つけたってことだろ」
「……私も、次を考えてるウサ」
「次?」
「世界を泡で満たすか、それとも――また、何か新しい“ぷるぷる”を見つけるか」
リリィはくるりと回って、イッセイの前に立った。目は真剣そのものだ。
「イッセイくん。あのとき言ったでしょ。泡で笑うって、いいって。――あれ、もっとたくさんの人に届けたいウサ」
「……そっか。じゃあ、俺も一緒に探すよ。次の、笑いの種を」
「ウサッ!」
手を合わせ、未来に向かって小さくハイタッチ。
そして翌朝。
まだ陽が昇り切らぬ時間。ぷるぷるスパ本店の玄関には、すでに出発の準備を終えたリリィの姿があった。背には荷物。胸には夢。
「じゃあ、行ってくるウサ! 泡が枯れたら戻ってくるウサねーっ!」
見送る従業員たちに手を振り、リリィは冒険の道へと足を踏み出した。
その背中には――確かに、ぷるぷると揺れる希望が輝いていた。