表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/191

泡と笑顔とその先に① ぷるぷる感謝祭、始まるウサ!

 晴れわたる王都の空の下、スライムスパ本店の前に設けられた特設ステージから、フィーナの声が高らかに響き渡った。


「祝・来場者一万人突破ウサーッ! 今日だけは泡の神に感謝して、朝から晩までぷるぷるしまくるウサよーッ!!」


 ぺこりとお辞儀した次の瞬間、スライム泡発射装置がドカンと爆音を上げ、ステージ全体がもこもこの泡に包まれた。


「ちょ、まだわたしの挨拶終わってにゃっ――!?」


 悲鳴とともに飛び出してきたのは、泡まみれのミュリル。全身が真っ白な泡で覆われ、髪が逆立ち、猫耳すら見えない。


「こらーっ! 泡濃度が規定の粘度を超えてます! 許可は出してませんよ!!」


 泡の海を突っ切って現れたのは、軍手とマスクで完全防備のセリアだった。手には魔道泡粘度計、腰には消毒ポーチ。そして彼女の後ろからは、機械的な音を立てて“泡品質チェックマシン”まで登場。


「次! 泡温度測定、行きます! 基準以下なら廃棄処分!」


 「ゆるくて、たのしくて、ふわふわしてる」感謝祭が、セリアのせいで瞬時に“戦場”と化したのは言うまでもない。


「――まぁ、想定内よね」


 スパ施設のバルコニーで、それらの騒動を見下ろしていたリリィは、呆れたように微笑んだ。少しだけ風が吹いて、金色の髪をなびかせる。


 今日までの道のりを、思い出していた。


 最初はただの素材だった。人間には無害な、ただのスライム。だけどちょっと加工しただけで、美容にも健康にも効く。しかも“泡立つ”。見た目がぷるぷるで、さわり心地がよくて、笑顔が生まれる。


「……最初は、ほんとにただの泡だったのに。ここまで来ちゃったウサね」


 ふと、隣に誰かの気配がした。イッセイだった。手には、魔石冷却式スライム冷蔵庫の試作型が入った小型ケース。最新モデルは、冷やしすぎ防止機能付きらしい。


「バズったな、リリィ。思った以上に」


「ウサっ。イッセイくんが魔石冷蔵庫くれたから、ジュレ商品が実現したウサ。スライム冷やすって、冷静に考えると意味わかんないのに……ウケたウサねぇ」


 二人で笑い合った。目の前には、泡まみれになって転げまわる子どもたち。露天ブースには“スライムドリンクバー”“泡ソフトクリーム”“ぷるぷるトリートメント体験コーナー”が立ち並び、列は止む気配がない。


「泡で笑うって、いいな」


「……うん。ほんとに、いいウサ」


 そのとき、貴賓席から優雅な拍手が聞こえてきた。


 クラリス王女と、その侍女にして公爵家の次女ルーナだった。二人とも、どこか嬉しそうに、舞台を見守っていた。王族も、貴族も、冒険者も、市民も、みんなが泡で笑う日。それが今日だった。


「ね、イッセイくん」


「ん?」


「そろそろ、次の“ぷるぷる”探しに出ても、いいと思わない?」


 その問いかけには、返事の代わりに、そっと差し出された手のひらがあった。


 リリィはその手を軽く握ると、くるりと舞台の方を振り返る。


「――ま、もうちょっとだけ、はしゃがせてもらうウサけどねっ!」


 ステージに走り出したリリィが、マイクを手に取る。


「次の演目は、“泡の女王決定戦”ウサーッ!! 勝者には、特製スライム金風呂一年無料券進呈ウサ!!」


 観客の歓声が、王都の空に響いた。


 笑顔の中に、ほんの少しだけ、未来の影がちらついていた。けれど、それは希望に似ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ