商機は国境を越えて② 泡の陰謀、スライム爆発事件!
「ぷるぷるに酷似したスパ施設が、王都南門の近くに突如開業したウサって……!」
朝から慌てて飛び込んできたフィーナの報告に、会議室の空気が一変する。
「名称は《ぷよぷよスパリゾート》。外観も、宣伝文句も、うちと瓜二つ。ですが……」
セリアが眉をひそめ、報告書を広げた。
「使用されているスライムが粗悪で、泡が異常発泡して室内を埋め尽くす事態に。現在、王都衛生局が立ち入り検査中」
「完全にパチモンだにゃ……!」
ミュリルが尻尾を逆立てる。イッセイも真剣な表情で腕を組んだ。
「先に打った契約書と商標、設計図が守られていれば訴訟は成立するはず。だが、証拠がなければ意味がない」
すると、そこにずいっと前に出た影。
「だったら、あたしが行くにゃ!」
いつもの無表情にぽつりと力を込め、ミュリルが宣言する。
「このねこ、潜入捜査のプロにゃ。ぷよぷよの中に潜って、証拠を掴んでくるにゃ!」
「なんで探偵モード!?」「いつの間に探偵資格を……!?」などとツッコミが飛ぶ中、ミュリルはすでに変装済み。白いトレンチコートに、謎の丸眼鏡。耳はきっちり隠して、しっぽもスカーフで巻いていた。
「このために用意してたにゃ。行ってくる!」
「ぬ、抜け目ない……」
数時間後。
「にゃん! 証拠ゲットだにゃ!!」
ミュリルはイッセイ特製の《小型魔道録画珠》で撮影した映像を持ち帰ってきた。映像には、倉庫裏で“ぷるぷる”のラベルを手作業で貼る様子や、粗悪スライムに危険な魔力を注入している場面がはっきりと記録されていた。
「完璧です。これで王都商業裁定所に提出すれば、営業停止処分は確実」
セリアが契約書と映像を添えて訴状を作成する間にも、噂は瞬く間に広がっていった。
「模倣店、爆泡事件で閉鎖!」「やっぱり“本家ぷるぷる”が安全・安心ウサ!」
そして数日後。
ぷるぷる本店の玄関前には、長蛇の列が再びできていた。
「これが……信頼ってやつか……」
イッセイが呟くと、リリィは両手を広げて叫ぶ。
「これぞ、正義のスライムパワーウサ!」
「正義かは微妙にゃ……でもまあ、勝ったにゃ!」
フィーナは泡シャボンを飛ばしながら「祝・商標勝利記念ライブウサ!」と踊っていたが、セリアがすかさずスピーカーを切った。
「許可なく演奏禁止です」
そんなドタバタの中、王都だけでなくヴェルナリア王国の支店建設も正式に開始されることが決定。
「世界をぷるぷるにする計画、順調ウサ!」
リリィの言葉に、皆が頷いた。
その夜、イッセイは屋上から夜の灯火を見る。
「たかがスライム、されどスライム、か」
見上げる夜空に、薄く流れる雲。
だがその先には、確かに“未来”の光が見えていた。