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貴族とスライムと美容の女神②

「ご準備を」


 その朝、スパランドに緊張が走った。


 王宮からの視察要請、それも第一王女殿下――クラリスの実姉にして、王国における“美と教養の象徴”と称される令嬢・アリシア・シルヴァが来訪するのだ。


 リリィは震えながら言った。


「うちのスライムが……王女様の肌に合わなかったら、どーすんのウサ……!」


「震えても仕方ないにゃ。やるだけやるにゃ」


 ミュリルは着替えを整えつつ、気合を入れる。


 一方で、フィーナは泡風呂の調整に余念がなかった。


「温度は適正、スライム濃度も最適……香りはリリィ特製“エルダーフラワー”ブレンドで……」


 セリアは浴槽の淵まで白手袋で拭き上げていた。


「王女殿下は完璧を求められるお方ですからね……誤差ゼロで行きます」


 そして、ついに王女が到着する。


「アリシア殿下、ようこそいらっしゃいました」


 クラリスが丁寧に頭を下げると、王女は微笑んで頷いた。


「噂は聞いております。妹が“人生が変わった”とまで言うのであれば、確かめる価値はあると判断いたしましたわ」


 その気品に、スタッフ全員が息を呑む。


「……では、参りましょうか」


 王女は特別室へと案内され、ロイヤルスパセットが準備される。


 リリィの手が震える中、クラリスがそっと囁いた。


「大丈夫よ。自信を持って。あなたの“ぷるぷる”は、世界一よ」


「……うん。ありがとクラリス……よーし、気合い入れてくるウサ!」


 入浴から三十分後――


「――ふふふ……これは、想像以上ですね」


 王女が出てきた瞬間、その姿に誰もが目を見張った。


 肌はまるで朝露に濡れた花弁のように艶めき、髪は陽の光を反射して煌めいていた。


「ぷる……ぷる……っ!?」


 ミュリルが自分の耳を疑う。


 その時、泡風呂清掃中だったフィーナが足を滑らせ――


「うわぁぁ!? あっ、だめウサ、そっち泡だらけ……!」


 ドシャーン!


 フィーナとミュリルが浴室から転げ出てきて、王女の足元で泡だらけに。


「ご、ごめんなさいウサああああああ!!」


 泡まみれのミュリルがぺたんと正座する。


 その時――王女が、声を出して笑った。


「……ふふ、面白いわね。これほど自然体で人を癒せる場所は、他にないかもしれません」


 一同が固まる中、王女は優雅に言い放った。


「“王室御用達”として、正式に認定いたします。この施設、心身の美を保つために最適ですわ」


 その晩、宴が開かれた。


 リリィはスライムパックを顔に貼りながら、涙を浮かべて叫ぶ。


「みんな……ありがとウサ……これで王都民、全員ぷるぷるにできるウサ……!」


「にゃはは、泡まみれになった甲斐があったにゃ」


「今後は王族対応専用ラインの開発も視野に入れましょう。ええ、いくらでも潔癖チェックしますから」


「ウサ! 次はスライム風冷却フェイスマスクと、寝ながら泡ホットスチームバスを開発するウサよ!」


「ぷるぷる……その果てしなき野望が、今始まったにゃ……」


 こうして、王国随一の美容施設として「スライムスパランド」は確固たる地位を築くのだった。

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