ぷるぷるは世界を変える②
そして迎えた、ぷるぷるスライムケア開業初日。
王都郊外の静かな丘に建てられた施設には、朝から地元住民を中心に行列ができていた。
「にゃんと! 本当に来たにゃ!」
ミュリルが受付から列を覗き、驚きと喜びの混じった声を上げる。
「開店前からこれって……ぷるぷる、バズってるウサ!」
フィーナは販促用の「ぷるぷる応援タオル(非売品)」を手に走り回る。
だが、賑やかな幕開けとは裏腹に、舞台裏ではすでに“スライム的”トラブルが炸裂していた。
「な、なんで泡が止まらないのウサァァァァ!?」
「エントランスのスライム泡ミストが、制御不能にゃ!」
ふわふわと広がる癒しの泡ミストが、いまやドーム状に膨れ上がり、受付嬢たちの姿を次々と飲み込んでいく。
「お客様ァァァ! こちらでございますウサァァァ!」
「ぬれたウサ……」
泡に飲まれたまま、フィーナが必死に案内を続ける。
「にゃぁ……足が滑る……ってにゃッ!?」
案の定、ミュリルが泡まみれで床に滑り、勢いよくジャグジースライム風呂にダイブ。
ボンッ!という音とともに、あたりにぷるぷるが飛び散る。
「……んにゃ、ぬるくて気持ちいいにゃ♪」
なぜかご満悦で頭にタオルを乗せて浮かぶミュリル。その横に、なぜか顧客のおじさまもぷかぷか。
「いい泡加減じゃな、嬢ちゃん……」
事故なのかサービスなのか、もはや判断は難しい。
一方、冷却スライムジュレの試飲コーナーでは――
「イッセイさん、冷えすぎてジュレが凍ったウサ!」
「なにぃ!? 冷却魔石をもう一段階弱める! これは……氷点下ぷるぷるになってしまったか……!」
イッセイが魔道ドライバー片手に装置を分解し始める隣で、試飲者がぷるぷるの氷をポリポリ食べて一言。
「……しゃくしゃくしておいしいぞ?」
「それ、新商品にするウサ!」
フィーナがすかさずメモを取った。
午後になり、トラブルにもかかわらず来場者は増え続けた。
「これ、肌がつるつるになる……!」
「お風呂上がりにこの冷たいジュレ、最高だわ!」
「噂以上だな……これはリピート確定だ」
中には泡まみれになりながら笑う貴婦人や、ぷるぷるスライムヘッドスパでうっとりする衛兵たちの姿も。
そして、その様子はいつの間にか、王都中に知れ渡っていった。
「ぷるぷるスパ、スゴイらしいわよ!」
「うちの旦那、入ったら一皮むけたって……」
「“王都噂通板”の速報に載ってる! “貴族も通う奇跡の湯”だって!」
リリィが読み上げる通板には、すでに《ぷるぷる》の文字がトレンドワードとして踊っていた。
「よっしゃ! これで予約枠は……」
「ふふふ……2ヶ月先まで埋まってるウサ」
「早ッ!」
泡まみれのトラブルに始まり、ぷるぷるの笑いで締めくくられた初日。
その日の夜、スパの屋上テラスで、リリィたちはぷるぷるドリンクを掲げて乾杯した。
「ぷるっと開業、おめでとう♪」
「にゃーっ、今日の泡も最高だったにゃ♪」
「……衛生面も、まずまず及第点ですわ」
「……いやいや、まずまずってレベルじゃない清掃だったぞセリア」
笑い声とともに、星空の下にぷるぷるの祝杯が広がっていった。