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ぷるぷるは世界を変える①

「ブランド名、どうするのウサ?」


 昼下がりの商会応接室。リリィ、フィーナ、セリア、イッセイに加え、リリィ商会の幹部たちが顔をそろえていた。テーブルには山のように積み上げられたネーミング候補の書類。それを見ただけで、すでに誰かの眉間にシワが寄る。


「“癒しと潤いの宝珠スパ”……な、長い」

「“スライム美泉郷エルフィリュード”……語感はいいけど覚えにくいにゃ」

「“ゼリー風呂・ぷる肌館”って……もはやスライムどこ行ったのウサ」


 フィーナとミュリルが交互に首をひねり、リリィは額に手を当ててうなる。


「うう……これは決まらない沼だわ……」


「リリィ様、あえて原点に戻るべきでは?」

 セリアが真面目に進言しつつも、なぜか白手袋で椅子の背もたれを拭いている。


「原点って?」


「つまり、ぷるぷるです」


 その瞬間、会議室に静寂が訪れた。


 誰もが一斉にフィーナを見た。彼女はケロっとした顔で、テーブルの上の書類に自分で“ぷるぷる”と書き足しながら、ニコニコと頷いた。


「だって、ぜんぶ“ぷるぷる”が源ウサよ。なら、いっそ“ぷるぷる”でいいんじゃない?」


 ……それは、あまりにも単純だった。だが。


「わ、悪くない……!?」

「いや、むしろ耳に残るし、子供でも言える……!」

「逆に“ぷるぷる”だけの方がブランド力高くなるんじゃ……!」


 空気が一変する。


「決定よ! ブランド名は《ぷるぷるスライムケア》! 覚えやすくて響きも最高っ!」


 リリィがバンとテーブルを叩いて立ち上がると、会議室は拍手とどよめきに包まれた。


 その頃、商会の別室ではイッセイが試作中の魔道具を前に腕を組んでいた。


「……よし、これで冷却魔石の循環は安定したな」


 目の前には、見た目こそ冷蔵庫のような立方体だが、中には冷やされたスライム美容パックがずらりと並んでいる。名前は《ぷるぷるストレージ(試作型)》。


「この冷却式スライム収納機があれば、入浴後のジュレや化粧水も常にキンキン状態だ」


 満足げにうなずいたイッセイは、そっと一枚のスライムシートを額に貼る。


「……ひんやり……ぷるっぷるだな」


 その様子を廊下の影からフィーナが見ていて、「ぷるぷるフェチの誕生ウサね」と呟いていたのは後日の話。


 一方その頃、セリアは衛生管理責任者としてスパランドの全室を“抜き打ち点検”していた。


「汚れ……無し。塵……ゼロ。ほこり……0.01グラム。許容外!」


 手には精密な魔力感知用ダスターと掃除用魔導箒。気になる一点が見つかるとすぐに魔法陣が展開され、部屋中が真空状態のように清められる。


「セリア、少し落ち着いた方が……」

「“清き者、肌も美しき”と申します」


 スタッフが静止するも聞く耳を持たず、セリアは湯船のタイルの目地まで魔眼でチェックする。


 しかも風呂場の脱衣所に入った瞬間、「整頓指数が甘い!」と叫んでハンガーの向きを揃え始めた。


 ミュリルはその光景を見て、ぼそりと呟く。


「……まるで潔癖の女神にゃ」


 こうして、リリィの商会による《ぷるぷるスライムケア》は、本格始動に向けて着々と動き始めていた。


「明日には看板も届くわ! テーマカラーは“やさしいぷる青”よ!」


「看板に“ぷるっ”って音を出す魔道具を仕込むのはどうだ?」とイッセイ。


「それ、ウケるウサ!」とフィーナ。


「にゃにゃっ、それじゃ“ぷるっ”って鳴るたびに入浴料10%アップにゃ!」


「ミュリル、それはダメよ!」


 笑い声が、工事中のスパ施設に響いていく。


 世界が“ぷるぷる”で変わる日――その夜明けが、確かに始まっていた。

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