表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/191

帰還と商会と泡まみれの未来②

 《スライムスパランド》――その構想は、リリィの手帳に書き留められた20項目以上の事業計画から始まった。


「必要なのは土地、設備、スライム供給ルート、運営スタッフ、それに……王都民の好奇心ね」


 リリィは商会の会議室で、紙束を机に広げた。図面、コスト計算、集客想定、試作品の評価表。すべてが整っていた。


「……なんだか、久しぶりに“商人”してる気がするわ」


 目を細めて呟くリリィの背後から、イッセイがコーヒーを差し出す。


「リリィの企画は、冒険よりもワクワクするな。こっちは《魔石式全自動冷却システム》の設計図がまとまった。スライムドリンクを常にキンキンに保てる」


「さすが我が相棒、仕事が早いわね」


 このスライムドリンクというのもリリィ発案。スライムの分泌液から抽出したエキスにミントと蜂蜜を加え、爽快な炭酸飲料として加工。お風呂上がりに飲めばスーッと体を内側から冷やしてくれるという代物。


 コンセプトはただひとつ。


 「お風呂上がりは、腰に手を当てて、キンキンに冷えたスライムドリンクを飲め」


「そのポーズ……いい! ポスターにするわ」


 こうして《スライムスパランド》計画は急加速した。


 郊外にある王国の未使用公園地帯を借り受け、大浴場・泥風呂・ジャグジー・冷水スライム風呂に分かれた五つのゾーンを設置。さらに、トリートメントルームやカフェ、物販ブースも完備。


 スタッフはリリィの商会出身者を中心に、アルバイトとして若い冒険者たちを採用。試供品として配られた《スライムボディソープ》《スライムパック》も上々の反応を得ていた。


 テスト営業初日。


「クラリスさん、王宮関係者の来場は……?」


「すでに三名の貴族令嬢と、私の姉上が興味を示されておりますわ。王女直々の紹介となれば、広まるのは時間の問題ですわね」


 と、貴族ルートの広報は完璧。


 一方、ルーナは屋台風カフェの看板娘として《スライムジュレ》を販売。


「このジュレ、ぷるぷるしてるけど味はしっかりしてるよー。お肌にもいいんだって」


「にゃんと!? これ食べるとお肌がぴかぴかに!? 買う!」


「ウサ〜! 二つちょうだいっ!」


 なぜか客側に混ざってるミュリルとフィーナを軽く無視しつつ、ルーナの笑顔に引き寄せられて行列ができる。


 店内に戻れば、セリアが清掃と衛生管理を担当していた。


「タオルの折り方は縦三つ折りからの巻き、シャンプーの補充は30分おき……備品の補充、完了しました!」


「セリア、完璧よ。君がいれば清潔面は安心ね」


 最初の顧客が風呂から上がってくる――王都貴族、シルヴィア夫人。


「……っ、なんという潤い。肌が若返ったような……!」


 その姿を見た周囲の客たちがどよめく。


「本当に? ちょっと! 私も入りたいわ!」


「え、あの肌……あの年齢で!? 嘘でしょ……」


 一気に広がる口コミ。


 こうして《スライムスパランド》は、王都の美容と癒しの聖地として、初日からバブル級の盛況を見せた。


 リリィは夜の回廊から、満員の受付ロビーを見下ろしながら笑った。


「これは、いけるわ。スライムの時代、来たわね……!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ