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帰還と商会と泡まみれの未来①

 春の風が王都の石畳を心地よく撫でていた。


 長きに渡る神域での戦いを終えたイッセイ一行は、ようやく王都セントリアに戻り、冒険者ギルドや宮廷への形式的な報告を済ませたのち、それぞれにしばしの休息を取ることとなった。


「うーん……久しぶりに、落ち着いた空気……。これよ、これ。文明の香りってやつね」


 リリィは自らが経営する《ルミナス商会》の看板の前に立ち、ふうっとひと息つく。


 久しぶりの帰還に心が躍る反面、彼女の表情には少しの複雑さが浮かんでいた。留守の間、代理で動かしていた幹部たちは安定運営を守ったものの、どうにも停滞感が否めない。数字も横ばい、アイデアも枯渇気味。


「ここで、ひとつ新しい風を吹かせるべきよね……ふふふ。私の本気、見せてあげるわ」


 彼女の脳裏には、冒険の道中で遭遇したあるスライムの姿があった。


 魔力を吸収し成長する特殊スライム《プルルン種》――その分泌液が肌に優しく、温泉に溶かすととろみと保湿効果がすごかったのだ。


「美容に効くスライムって……ワンチャン、バズるんじゃない?」


 冗談半分で発したその言葉に、乗ってきたのはイッセイだった。


「スライムの分泌液を利用した泡風呂、あるいは化粧品……面白いな。魔石を組み合わせれば、家庭用装置にも応用できるかもしれない」


 すでに試作に取りかかったイッセイは、自らの部屋で《スライムシャンプー試験機》を組み立てていた。魔石式の自動攪拌器に、冷却ユニット、匂い成分の調整機構までついた代物。もはや趣味が仕事の域である。


 そこに現れたのが、王都で待機していた“温泉マニア”ことフィーナだった。


「うわぁ、なにこれウサ! 泡がキラキラしてて、しかも手触りが……しゅごいっ!」


 ぱたぱたとスライム泡を頬に塗ってはうっとりするフィーナ。次いで、湯好きミュリルも興味津々で鼻をひくひくさせながら現れる。


「んにゃ? これは……スライム湯! 匂いがやばい、癒し系だにゃん……!」


 さらに、何故か通りすがりに巻き込まれたセリアが、目を潤ませながら後ずさる。


「こ、これは……部屋がぬるぬるの泡まみれに……汚れる、いえ、清潔なのは分かってますけど……っ!」


「よし、じゃあ実証実験第一号。三人まとめて、スライム泡風呂行ってらっしゃい」


 リリィがにっこり笑って指差す先には、巨大なガラス風呂のプロトタイプ。


 こうして始まった《スライム泡風呂テスト》は、想像以上に革命的だった。


 泡の温度を魔石で一定に保ち、毛穴まで届く柔らかい粒子が肌を包み、スライム特有の保湿力でお風呂上がりのしっとり感が持続。しかも、肌の色艶まで整えるという驚異的効果を発揮した。


「こ、これは……リリィ様、商品化すべきです!」


 風呂から上がったセリアが髪をつやつやさせて叫ぶ。


「泡が……泡が、やさしいウサ……」


「極楽にゃん……極楽すぎて、ダメになるにゃん……」


 三者三様に蕩けた表情を浮かべながら、まるで極上の温泉宿から出てきたかのような顔をする。


 リリィはその様子を見て、唇を引き締めた。


「ふふ、これは……いける。絶対に、王都で一番のリラクゼーションを作れる!」


 かくして、リリィの構想が現実になる日が来た。


 その名も――《スライムスパランド》計画、始動である。

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