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エピローグ:回想と旅立ちの余韻

静かだ。

王都の夜は、祭りの余韻を残しながらも、深い静寂に包まれている。


俺は今、宿のベランダにひとり腰をかけ、空を見上げていた。漆黒の天幕に、星が淡く瞬いている。あれほど多くの命と記憶を抱いた浮遊諸島をあとにし、こうして一息ついている今が、少し不思議に思える。


……本当に、いろいろなことがあった。


クラリス。

王族であることと、一人の女性であることの狭間で揺れながら、それでも俺にそっと唇を重ねてくれた。あの書庫での囁きは、忘れられない。


ルーナ。

月の光の下、遠回りのようで真っ直ぐな気持ちを伝えてくれた。手をつないで歩くだけだった日々のなかで、いつのまにか、彼女は隣にいるのが当然の存在になっていた。


リリィ。

泡風呂の香りとともに笑顔で寄り添ってきた彼女の瞳には、冗談の奥に本気があった。俺を癒したいと言ってくれるその気持ちが、胸に沁みた。


セリア。

不器用で、でも誰よりも真っ直ぐで、強くて優しい。訓練場の裏で交わしたキスは、不意打ちのようでいて、確かに本心だった。


シャルロッテ。

森に揺れる風とともに伝えられた想い。彼女の静かな情熱と、決して忘れさせまいとする意志。その記憶は、風と共に俺の胸に刻まれた。


サーシャ。

武士の誇りを胸に抱えながら、それでも「それがしは、女である」と告げてくれた夜。屋根の上で見上げた星空は、今も彼女の瞳と重なる。


ミュリルとフィーナ。

ひとりは静かに孤児たちを癒しながら、俺の前では小さく照れくさそうに「特別にゃん」と笑ってくれた。

もうひとりは、理と感情の間で戸惑いながら、科学式のように真っ直ぐ気持ちを伝えてくれた。


……こんなにも、大切な仲間が、俺のそばにいる。


それぞれが、それぞれの理由で旅に加わり、想いを抱きながら、共に歩んでいる。

俺は――彼女たちを守れるだろうか。

想いを、未来を、何より彼女たちの“幸せ”を。


ふと、風が吹いた。

あの浮遊諸島で見た幻のように、桜色の布をまとう少女の姿が、夜の闇に溶け込むように浮かぶ。


「また会いましょう、イッセイ様――今度こそ、私の想いを伝えるために」


……リアナ。

世界の記憶から消された聖女。

その存在は、確かに風と共に、俺の中に残っている。

そして、俺たちはその真実に触れに行く。封印の神域、セーレ・リュミエールへ。


「……俺たちの旅は、もっと強くなる。想いも、未来も――全部、守っていく」


静かに立ち上がる。

ベランダの奥で、灯りが漏れている部屋の中。

俺を信じてくれる仲間たちが、きっと待っている。


「行こう。これが、俺たちの“本当の物語”になる」


そう言って、俺は歩き出した。

次なる地、千年の記憶が眠る封印の神域へ――。

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