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リリィ編「湯上がり、泡の香りに包まれて」

はぁ~、やっぱり自分で作った入浴剤は最高♪

泡がふわっふわで、お湯がほんのりミルキーで、しかもいい香り。

疲れもとろけて、肌もしっとり――これ、完全に新商品いけるわっ!


「……あははっ、イッセイ、どうだった?」

わたしは自分の作った泡風呂から上がったばかりのイッセイに、無邪気に問いかける。

肩までタオルにくるまったまま、ティーカップ片手にソファに腰かけた彼は、少し照れくさそうに微笑んだ。


「正直、すごかった。泡に包まれてると、なんていうか……心までほどけるような感覚だった」

「でしょでしょっ♪ 癒しって、理屈じゃないの。気持ちがほぐれるって、そういうことなんだから」


わたしの“癒しと美”への哲学、ちゃんと届いたかな――って思ったら、胸がきゅっとなった。

イッセイが“わたしの作ったもので癒された”って、それだけで、なんだか全身がふわふわしてくる。

……まるで泡風呂の残り香みたいに。


「イッセイもさ、冒険ばっかりじゃ、つかれちゃうでしょ? だから、たまにはこうして、癒されるのも大事なんだよ♪」

「……リリィがいると、本当に癒されるよ」


その言葉に、どくん、と心臓が跳ねた。


「うわ、もう……さらっとそういうこと言うんだから。ずるいっ!」

わたしはわざと怒ったフリで、テーブル越しに彼の膝にちょこんと指を伸ばして、つついてやった。

でも、目が合った瞬間――ふいに、空気が変わった気がした。

彼の視線が、まっすぐわたしを見てた。


わたしの指が触れてた膝が、すこしだけ震えた。

え、なにこれ。どうしよう。すごく近い。鼓動、速すぎる。

――でも、嫌じゃない。全然、嫌じゃないどころか……


「ね、イッセイ……」

言葉が自然に出てた。考える前に、心が先に動いてた。


「わたしさ、ずっと思ってたの。

“キレイになりたい”って、“みんなを癒したい”って、それは仕事でもあるけど――

……でも、あなたに褒めてほしいから、頑張ってたところも、あるんだよ?」


イッセイは驚いたように目を見開いたけど、すぐに、その目がやさしく細められた。

ねえ、そういう顔されたら、もうだめだよ。わたし、止まれないよ?


「ん……いい? わたし、ちゃんと伝えたいの」


わたしはソファから立ち上がって、そっとイッセイの隣に腰を下ろした。

彼の顔が、こんなに近くにある。温かくて、まっすぐで……好き。ほんとに、好き。


「……んっ♡」


唇を重ねた瞬間、泡風呂の香りがふわっと立ち上った気がした。

優しい甘さと、心が弾けるような幸福感が、唇から胸へと広がっていった。

とろける。ほどける。まるで泡みたいに、全身が熱くなって、消えていきそうだった。


でも――このキスは、消えない。

記憶じゃない、体温に刻まれる感覚。


唇が離れたとき、わたしはゆっくりと目を開けた。

目の前にいるイッセイの顔が、少し赤くなってるのが嬉しくて、つい笑っちゃう。


「ふふっ、イッセイも癒されたでしょ?」

「……ああ。癒された、どころじゃないな」


その言葉に、胸がきゅーってなった。

ああ、もうっ。なにこれ。恋って、こういうのなの? こんなに、幸せになっちゃうの?


「じゃあ、また明日も――癒してあげるね。毎日でも、何回でも♪」


夜の静寂の中、泡の残り香と笑い声が重なって、わたしの心は、満たされていく。

イッセイの隣にいるだけで、こんなに強くなれる。そう思えた夜だった。

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