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お友だち




 宴の翌日。夜明け方でまだ外は真っ暗で光もない虎の刻。


 目が覚めたので、起き上がればどこから見ていたのだろうかというくらいの時機で女房が入ってきた。



「おはようございます、咲良様。湯浴みを準備させておりますのでこちらの湯帷子(ゆかたびら)に着替えをさせていただきます」



 湯帷子とは麻の単だ。七殿五舎でも風呂殿と呼ばれる蒸し風呂部屋で湯浴みはさせてもらっていたのでこれを着るのに抵抗はない。

 なので着せてもらい、室内に設置されている湯殿に案内された。だが、その部屋は私の想像しているものとは違っていた。



「真朱領は温泉が湧き出ているんです。湯殿は初めてですか?」



 そう問われて頷くと、女房はパァッと花が咲くように笑顔になった。



「そうですか。では、楽しんでいただけるように精一杯お世話させていただきます。申し遅れました、私湯殿を担当しています水蓮です」


 耳が聞こえなくてもわかるくらい女房は元気よく言うと、私を浴槽に入れた。


「今日は奥方様に言われて薬草湯にさせていただきました」


 奥方様……と言うことは朱李様のことだよね?好かれていないと思っていたけど違ったのかな?


「本日出発されると聞きましたので、緊張や不安を和らげる効果のある柑橘の果皮と芳香を持つ大茴香、血流を良くする紅花を入れました。では、私は按摩をさせていただきます」


 お湯に浸かりながら水蓮さんに体を委ねる。按摩は初めてだったけれど、手や腕をいい力加減で体がほぐれていくのを感じる。全体を按摩されて香油を塗られ、髪にもいい香りの香油を塗られてあっという間に艶々になった。


 湯浴みはあまり好きじゃなかったのだけど、今までにないくらいの癒し時間だった。


 湯殿から出ると室内は粉末にした香木を蜂蜜で練り合わせた薫物(たきもの)を炭火で炊かれており香りが部屋中を充満していた。その香りを纏う裳唐衣を着付けられると、朝餉を広間でするとのことで宴の時の部屋より小さいが五人ほどが入れる居間に案内をされた。



「おはようございます、咲良様」


 声をかけてきたのは、奥方様の朱李様だった。まだ珀様や玄様、葉生様の姿はなくまだきていないことがわかる。


 私は紙を取り出して挨拶とお風呂のお礼を書いて見せる。


「この前はごめんなさいね、なんだか感じが悪かったでしょう? 私にとっては、珀はね大切な幼馴染なんだ。だからどんな子なのかなって思って感じ悪くなっちゃって、愛想もなかったし、謝ろうと思ったの。だけど、珀や玄に話を聞いていい子なんだろうなぁってわかって、もしよかったら、仲良く、してくれると嬉しいな皇国に支える四神の妻として……というか」


 最後の方はなぜか元気じゃなくなっていたけど、好かれていないわけじゃなかったのだと知れてとても安心する。


「そこは、朱李。お友達になってって言うところじゃないかな?」


 二人だけの空間だったはずなのに、いつの間にか珀様たち三人がいて葉生様は朱李様に話しかけている。


「あの、咲良様。私とお友達になってもらえませんでしょうか?」


 朱李様は顔を真っ赤に染めながら言ってとても可愛らしかった。それにお友達なんて今までいたことがなかったからとても嬉しい。


【私で良ければ喜んでお友達になりたいです】


 紙を見せれば嬉しそうな笑みを浮かべて「あっ、朝餉。朝餉を食べましょ! 珀様たち出発されるって聞きましたし」と言って席についた。


 そうして、朝餉を食べ終えるとすぐ出立する準備を始めた。



「……では、お気をつけて。珀様、玄様」


「あぁ、ありがとう」


 葉生様と珀様が話をしている横で、朱李様も私に話しかける。

「次会えるのは、珀様と咲良様の祝言の時よね。手紙を書くわ」


 私は頷いて手荷物に入れていたものを取り出す。


「これは?」


【私が作った組紐です。お友達になってくれた朱李様に贈りたくて】


 この組紐は、朱李様に会った時にもし渡せたらと思い港町で買った生糸で作ったものだ。


“この地と朱李様が幸せな毎日が暮らせますように”と自分自身の意思で願いを込めた。

一応、珀様にも許可を取ったから大丈夫だと思う。


「ありがとう、大切にするわ」


 喜んでくださった朱李様を見て私は心が暖かくなるような気持ちに包まれる。初めての感情だけど、これはとても気分がいい。


 気分の良いまま、馬車に乗り込むと葉生様たちに見送られながら私たちの馬車は出発した。

 今から向かうのは珀様の治める西の領地・華陽領だ。







 

 

 

 


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