先祖返りと咲良の能力
あの後、馬車に乗って南の地・真朱領の中心にある異国のような外観のお城に向かった。お城に入ると、まず大きな部屋に通される。
ここの人たちは単ではない、見たことのない変わった装束を着ていて案内をしてくださった方も同じ感じだ。
その中には派手な椅子があり、そこにはさっき話をしたばかりの朱雀様がいらっしゃった。
「よく参られた、珀様。更衣様、お久しぶりでございます」
朱雀様は前髪をかきあげており、淑景舎に何度か訪れてくださった商人様だと分かる。
「葉生は咲良様とお知り合いなの?」
「あぁ。帝から頼まれて組紐も糸を届けていてね。お得意様だったんだよ」
そう言って朱雀様は私の方を見た。
「咲良様、お久しぶりでございます。実は私は貴女さまに謝らないといけないことがあります」
朱雀さまは椅子から立ち上がり私の前に来る。その様子に私は疑問に思うが、彼の言葉を待った。
「実は私は、貴女が更衣さまだった頃から耳が聞こえないこと、話さないではなく話せないこと知っていました」
え……?知られていた?
私は急いで紙を取り出して筆を走らせる。
【それは帝に聞いたということでしょうか】
紙を彼に見せると、首を振った。
「帝からは更衣さまは話すことができないらしいので配慮をお願いしたいとしか言われてません。帝は耳が聞こえないことは知らないと思います。私も言っていません。耳が聞こえないのではと疑ったのは咲良さまが更衣として入内をし、二度目の時です。その時は次縹色の糸を買っていただきました。話せないだけなら声をかけても反応してくださると思うのですが、反応がありませんでしたので」
知っていたから、手紙と共に糸を進めてくださったのかしら……もしかして、珀様と玄様がゆっくりと私の顔を見て話すのも耳のことを知っていたから?
「勝手ながら、咲良様が珀に下賜されると聞きまして耳が聞こえない可能性を二人にはお伝えしました。」
やっぱり知っていたんだ。だけどそのおかげでここまで彼らは優しくしてくれたのかもしれないと思ったら感謝の気持ちでいっぱいだ。
【ありがとうございます。おかげで優しくしていただきました】
書いた紙を見せると朱雀様は「それはよかった」と微笑んで珀様を見る。
「咲良様の秘密を暴いてしまったから、珀も秘密を話すべきだ。一度は見られているのだろう? じゃないと、不公平だと思う」
「あぁ、そうだが……いや、でも」
「領地に帰ったら、すぐに祝言をあげると聞いたよ。夫婦になるのだから秘密は良くないと思う」
色々と疑問に思うことはあるけれど、私は秘密と聞いて【無理して話をしなくても大丈夫です。言いたくないことも知られたくないことも人にはあると思います】と書いて二人に見せた。
「いや、知られたくないことではないしこれから一緒に暮らせば知ってしまうことだからここで言っておくのが驚かせないでいいな」
珀様は私の顔を見て「驚かないでくれ」と言うと、なぜか玄様の後ろに隠れてすぐ後ろから出てきたのは白いモフモフの虎様だ。その姿は途中まで一緒だったけど突然いなくなってしまった白虎様だった。
「――これは先祖返りだ。たまに生まれるんだ強い霊力を持つ子が。おおよそ、その子らには先祖返りで白虎になってしまってね。なってしまったら、ひと月はこの姿なんだ」
ひと月はこの姿って言っていたのにどうして白虎の姿なんだろう?
「この姿でいられるのは咲良様のおかげなんだ。咲良様には特別な能力が備わってると私は思っている」
え、どういうこと?意味がわからない……白虎様が珀様で、珀様は白虎様だったということで私は特別な力が備わっている?
「まだ仮定だが、俺は霊力そのものを殺す能力があるのではないかと思っている。珀が人の姿に戻れたのもこれのおかげかと思うよ。ここの領地は外交を任されている関係で色々な資料が入ってくるんだ。その影響で研究者が多くて研究をしていて過去にそういう人がいたと記録がある。もしその能力が備わっているのなら、咲良様は先祖返りで苦しんでいる人や霊力が強すぎるうえに辛い思いをしている人たちを救うことができる」
今まで耳が聞こえないからと役立たずと言われていたから朱雀様から伝えられたことは私が考えていた以上に重く、想像もしていなかったことだった。