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ep.2 ようこそ、スキル絶対評価の学校生活へ

「……やめてください」 


 入学式があった次の日、学校に登校していると、聞き覚えのある声が聞こえた。


 すごく嫌な予感がする。


「いいだろ、別に。ちょっとでいいからさ」


「いい加減にしてください。警察に通報しますよ」


 やっぱりだ。


 昨日、俺が唯一、名前を覚えることができた水野さんがナンパに遭っていた。


 俺はこういうシチュエーションがあったときは、無視して通り過ぎる。

 が、今回は無視して通り過ぎるのは困難だ。

 

 なぜって?

 それは、ちょうど俺が通る道で水野さんがナンパされているからだ。

 遠回りをすれば遅刻してしまうし、そのまま無視して通りすぎれば学校で水野さんに何か言われる。

 つまり、俺がナンパを止めるのが一番手っ取り早い。


「あの、すみません。そこ、どいてもらっていいですか?」


「ああ? なんだ、お前は? この状況を理解出来ないのか?」


「君たちがナンパをしているっていう状況は理解していますよ」


 睨みながら言った。

 そうすると、ナンパをしていた一人の男性が素直に謝って、皆逃げていった。


「す、すみませんでした……」


 俺の睨みって、そんな怖いのかな?


「緋織くん。助けていただきありがとうございます」


「どういたしまして」


 一人で登校する予定だったのが水野さんと一緒に登校することになってしまった。

 お互い、話の話題もなく、沈黙の時間が過ぎ去っていった。


 凄く、気まずいんだけど……。


「……水野さん。さっきは災難だったね……」


「はい。……名前、覚えてくれたのですね」


「名前くらい覚えられるから!」


「そうですか。昨日は自己紹介した後、私の名前を覚えていませんでしたよね。ちなみにクラスメイトの名前はどれくらい覚えているのですか?」


「そ、それは、その……」


 この人、的確に痛い所をついてくるな。


「まさか、私以外で一人も覚えていないのですか!?」


 俺は首を縦に振った。


「べ、別にいいでしょ! 人それぞれ覚えていくペースがあるんだから」


「よく、ここで、逆切れ出来ましたね……」


「もうこの話は一旦終わりにしよう」


「あなたが原因でしょうに……」


 ここで俺が何か答えれば、この話題が一生終わらない気がした。

 だから、俺はあえて黙っておく。


■■■


 学校に着き、自分の席に座っていると、隣の席の茶髪の男子が話しかけていた。


「なぁ、慧」


「……え、えっと……」


 下の名前で呼ばれることが今までなかったので少し反応が遅れてしまった。


「俺の名前は奈島(なじま) (りく)だ。よろしく」


「緋織 慧。よろしく」


「でさ、お前は前の席の女子と付き合っているのか?」


「付き合ってないけど……。」


「いや、だって、お前ら、凄く仲がいい感じじゃん。だから、てっきり付き合ってるのかと……」


 何なんだコイツは。

 普通、初対面でこんなこと聞くか。


「初対面でそんなことを聞くの失礼だと思わない?」


「すまんな。俺、知りたがりだから、つい癖で」


 そんなやり取りをしているうちに先生が入って来た。


 そういえば、この学校はチャイムが鳴らないな。

 ノーチャイム制なのだろうか。


「よし、それじゃあ、朝学活を始めるか。……今日から通常通りの授業だ。とは言っても、最初はガイダンスだろうから、来週からは教材を忘れないように。昨日、言い忘れていたんだが、皆の知っての通りこの学校はノーチャイム制だ。時計をちゃんと見て、授業の準備をしとけ。遅刻者にはペナルティが科せられる。くれぐれも遅刻しないように。連絡は以上だ」


 危ない。

 もし、今日、俺が遠回りのルートを選んでたら、学年で初めての遅刻者になるところだった。




 朝学活が終わり、1限目の数学のガイダンスの授業の準備をして、教室で待っていた。


「緋織くん。消しゴム、貸してくれませんか?」


「いいけど。……忘れたのか?」


「はい」


 俺は普段使ってない消しゴムを水野さんに渡した。


「ありがとうございます。お礼としてお昼、奢ります」


「いや、そこまでしなくてもいいよ」


「いえ、今朝助けてくれた分も含めますので」


「……ありがとう」


 別に見返りを求めて助けたり、消しゴムを貸したりしているわけではないのだが、ここは素直に奢ってもらおう。


 1限目から5限目の授業をすべて終え、昼食の時間になった。

 昼食は奢ってもらう約束だったので、水野さんと一緒に食堂に向かった。


 この学校の食堂はほとんどの料理が揃っているので基本的に食べたいものを食べられるし、なかったとしても、前日にリクエストすれば食べることができる。


 何を食べようかと迷っていると、いつの間にか食堂に着いていた。

 迷う時間がもったいないので、好物であるオムライスを奢ってもらうことにした。


 水野さんが俺の分と自分の分を頼み、俺は自分の分であるオムライスを持ち、席に着いた。

 水野さんは俺の隣の席に座った。


 わざわざ一緒に食べる必要はないのだが……、まあ、いいか。


 知っている人と一緒に食べているせいか、なかなかに気まずい。

 やはり、席を変えて水野さんから離れた方が良かったのだろうか。


「緋織くんは、オムライスが好きなのですか?」


「オムライスというよりは卵料理全般かな。そう言う水野さんはうどんが好きなのか」


「はい。……その、よろしければ、今度からお昼ご一緒しませんか?」


「別にいいけど……。どうして?」


「一人は寂しいので」


 こうして俺は今後、水野さんと一緒に昼食をとることにした。


 昼休みが終わり、午後の授業に突入した。


 この学校は、1コマ40分の8時間授業だ。

 午前の5コマは座学で午後の3コマは実技と実践の授業がある。

 1コマの時間が少ないせいか座学は思ってたよりも楽だ。


 今日は教室でガイダンスをすると言っていたが、時間になっても先生が来ない。

 授業を忘れているのだろうか。


 外の景色をボーッと眺めていると天気が急に曇り始めた。

 今日の天気予報は確か晴れだったような……。


 俺はそんなことを考えながら、あくびをすると先生が入って来た。


「遅れてすまない。えーっと、このクラスの実技と実践の授業担当の黒雨(くろう) 景玄(かげはる)です。分からない事があれば聞いてください」


 この先生は本当に授業が出来るのだろうか。

 声のトーンは物凄く低いし、やる気がなさそうだし、遅刻するし。

 不安で仕方がない。


「えーっと、ガイダンス始めますか。あー、その前に今日の授業の流れからでしたね。……えっと、まず、ガイダンスをやり……、その後に体力測定がありまして。えっと、確か、最後に……。いや、これは今日じゃなくて。……えー、取り敢えず、ガイダンス始めますか。じゃあ、このプリントを後ろに回してください」


 そう言って、先生はプリントを前の列の人に渡した。


 プリントが後ろまでいきわたると、先生が喋り始めた。


「プリントが後ろの方まで渡ったので、始めたいと思います。まずはプリントに目を通してください」


 プリントは三枚あり、ホッチキス止めされている。

 プリントの内容を見ていくと実技と実践の授業の内容と評価方法が記載されていた。


 実技はスキルを使い、精度を上げていく授業で個別に試練が与えられることがほとんど。

 たまにグループになることもあるらしい。

 評価方法は中間テストと期末テストの成績、与えられた試練の進捗状況で決まる。


 実践は2人1組で学校が作った迷宮(ダンジョン)に挑んだり、生徒同士で戦ったりする。

 評価方法は中間テストと期末テストの成績、授業での成績だ。


 実技が1コマで実践が2コマだということ。

 後はそこまで重要なことは書かれていない。


 プリントを読み終えて顔を上げると、先生が喋り始めた。


「えー、プリントに目を通してくれたと思うので、補足の説明をします。学生証に黒い丸があると思いますが、その印は現時点でのあなた方の実力を示したものです。今後の実技と実践の成績によって色が変化していきます。上から順に確か……、紫、青、赤、黄、白、黒という感じです。学年が上がったときに黒ならE組、白ならD組、黄色ならC組、赤ならB組、青ならA組となります。まあ、頑張ってください」


 先生が話終えると、俺の隣の席の奈島くんが手も挙げずに発言をした。


「先生。紫はどうなるんですか?」


「手を挙げて発言しなさい。……紫は神能人格者候補になります。神能人格者候補ですので、一度、紫になれば、色は変化しなくなります」


「じゃあ、黒だとペナルティとかあるんですか?」


「卒業時に黒だった生徒は留年してもらいます」


 三年生が6クラスある時点でうすうす気づいてはいたが、留年があるとは……。

 

 先生が「留年」という単語を口にしたとき、一人の生徒が発言した。


「先生。そんなこと聞いてないですよ!」


「だから、今、言った。君たちはこの学校をなんだと思ってる? この学校はスキル絶対主義だ。スキルで実力で示せ。これがこの学校のルールだ」

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