~麻薬戦争と腐った化け物~ 3
目が覚めると純白のシーツが僕の鼻をくすぐった。そこはまるで王室のような華やかさ。
いや、まてよ。あの暖炉の上の肖像画、どこかで見た記憶がある。
たしかにリューク皇帝の姿だ。こんなのコインに彫ってあるのでしかみたことがない、まるで生きてるかのような姿。今にも動き出しそうだ。
パチン
実際は音なんてしなかった、しなかったけど聞こえたような気がした。絵は僕に向かってウィンクしたのだ。
見間違いに違いないのだが、それでも僕は驚いた。
それにしても・・・。
ここはどこなのだろうか。
確かに僕は今まで逃げ出そうと、いや確かに避けたはずなんだけど。
扉が少し開いた。
しかし隙間からは人の顔が見えない、扉の作りは豪華なのに立て付けが悪いのだろうか。しかし足音は聴こえる。
それは馬鹿でかいベッドの淵からいきなり現れた、小さな女の子の足音だった。
しかし僕もいちいち驚く、いや驚きすぎて心臓のサイズが半分になったのだろう。とにかく凄い顔をしていたらしく少女はお腹を抱えて笑っている。流石に僕でもむすっとくるぐらいの笑い方だった。
すると少女は立ち上がり身なりを正して挨拶をした。
「はじめまして、英雄さん。私はベルナル・ベルモンドです、よろしくね。」
拭き忘れたのか目には笑ったあとの大粒の涙がついている、だが不覚にも可愛いと思ってしまった僕でした。
はて、ベルモンドと。
どこかで聞いたことのなる名だ。そう考えている間に少女はベッドの淵からよじ登ってくる。
「私が名乗ったのに貴方は寝たまま返事もないのね、どんな教育を受けてきたのかしら。」
なんて言ってくる。まったく目上の者への言葉遣いを知らないのか。
「悪いが教育は中等部までしか受けられなかったんだ・・・え。」
すかさず喉仏に手をあてる、声が違う・・・僕の声じゃない。
「あっ、あーあー。」
声の確認をしている僕を少女は可笑しな顔をして眺めている、たぶん悪い子ではないのだろう。僕は改めて挨拶をする、
「僕の名前はアリア。アリア・マクラガル一般兵です。アリアと呼んでくださいお嬢さん。」
慣れない声での挨拶とは気分が悪いが、なんでこんな声なんだろうか。喉が痛い。
「・・でね、火事の後から貴方だけが助かったのよ!奇跡みたいよね。」
あぁ煙をすったからこんな声なのか。
・・・火事ぃ!
「火事なんてどこで・・・?」
僕の素っ頓狂な声が面白かったのかまた笑い出す少女、にしても良く笑う女の子だ。
「貴方が発見されたときにはもう消火が終わってたの、貴方は火事の現場の真ん中にいたのに火傷ひとつない体だったわ。着替えを手伝ったメイドが言ってたもの。」
今更だが僕は綺麗な服を着ていた、作りが違うというか軽く700000ハルクはいきそうな代物だ。
「70000000ハルクよ。」
少女はニヤニヤしながら答える。どうやら桁が違うようだ。それにしてもこの部屋は全然寒くない、その割には暖炉に火がついていないのに。まったく不思議なことばかりだ、あの化け物に出会ってから記憶の整理が儘ならない。
ぐぅ~。
空気をよまない腹の音は少女の笑い声にかき消された、息が苦しいのか微かに痙攣しながら、
「そうね、まずは食事にしましょう。話は食べながらでもできるし。」
少女は僕の手を引きながら、長い長い廊下を歩き出す。にしても広い屋敷だ、寝ていた部屋だけでも田舎の元俺の家を上回る広さ。そこらかしこにある家具には金銀の装飾が施されている、少女の髪飾りには大きな宝石がついていたが。まさか本物ではあるまい・・・。