~麻薬戦争と腐った化け物~ 1
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「兵士の宿舎と豚小屋は似たようなもんだ。」
壁に殴り書きされた汚いバンベル文字は僕を睨みつけた、だから僕も睨み返した。
三段べッドと言うにはあまりにも簡素なつくりの寝台。まるで本棚みたいなものだ。薄い毛布に包まらなければ、明日には凍死しそうなほど厳しい寒さを誇る、首都コゼットの冬。臭い服を何日も着なければならない最下級兵の宿舎は本当に豚小屋みたいなものだと僕は文字に呟く。
下の段では麻薬が切れたのか40代の男がガクガク震えながら夜を明かす、なんて夜だ。
天井には、自決の方法が書かれた紙が僕を見下してる。舐めやがって、僕は2日でこんなもの暗記した。16歳の冬にこんな思いになるとは世の中が腐ってる証拠だなんて心の中では毒づいてる。正直今にでも帰りたかった。死にたくなんかない。頭の中で繰り返すのは最下級宿舎からの脱出ルート、訓練中に考えていることなんて逃げることぐらいだ。
だが逃げられない、僕に帰る家なんてないからだ。
正確には帰る家に見放された、とでも言おうか。簡単な話、売られたのだ。人身売買は禁止されているが、そんなことが常識になるほど都会に住んでやいない、未来のある妹とクズの僕では比べる価値も無いのだろう。
僕は16歳の春にトラックで街へ連れて行かれた、向かう先は人間市場。僕は商品。
そこからなんて、もうどうだっていい。先なんて無かった。
背中に付けられた擦過傷は、もう痛くはないから。
寝付けない夜、それは何歳になっても長いものだ。身体を動かして眠気が追いつくのを待とう、僕は脇に置いといた持っている服の中で一番厚い支給コートを肩にかけ音をたてないようにベッドから飛び降りた。南京錠が掛けられた扉は付け根をニ、三回引っ張れば外れた。僕は曹長のふかふかのジャンバーの胸ポケットからくすねた煙草を咥える、マッチをブーツの裏で擦りつけ火を灯す。不味い煙が首都コゼットの満点の星空にかき消されて、大きな月があたりを照らす。
にしてもムク室長が言うにはこの煙草12000ハルクするらしい、なんたることだ僕の月給三ヶ月分を上回る、そして一吸い。
こりゃばれたら殺されるな、冗談無く。たぶん猟銃を口に入れられて僕の脳漿を拝むだろう、そんぐらいできる権限は持ってるはずだ・・・。まぁ一瞬だからいいかなぁ、と思える僕の頭は腐ってるんだろう。
「うまそうな匂いをさせてるじゃないか。え?」
瞬間、僕は跳び退く。丁度僕の頭の上の窓からムク室長が顔を出していた。瞬時に昇った血が徐々に身体に戻る、彼はヒューと口笛を吹きながら笑っている。
「流石の反射能力だな、戦闘なら俺が死んでいた。」
そう言いながら僕に右手を突き出す、どうやらお世辞で部下から煙草をせびるつもりらしい。僕は渋々薄紫のキャラメルの箱を投げ渡す、中は満杯に煙草が詰めてある。
「おいおい、いったい何本盗んだんだ?こりゃバレる本数だぜぇ。」
本当に人事みたいに微笑みながら口に咥える、流石に室長ともなると簡易式火起こしぐらい持っているみたいだ。
煙を口に含みながら室長は言った。
「火を持つ事により人間は他の動物より優位に立った。
剣を握ることにより人間の中でも格差が生まれた。
銃を握ることにより人間は上へと昇った・・・そう思うかな?」
煙を鼻から出しながら僕は答える。
「結局、人間は変わりません。剣も銃も人を殺す武器でしかない。
同じ人間の中で競って、それが進歩と呼べるのでしょうか。」
「同感だ。」
月明かりが僕らを照らす、月の光は人を狂わせるのか、落ち着かせるのか。そんなことは分からないが、僕たちが腐ってるのは事実みたいだ。