序章【青春狂騒編】第五話「謎の転入生 前編」
「なんだこの野郎⁉︎冷やかしかぁ⁈…リア充共がよぉ‼︎バカにしてんじゃねーぞ⁈」
悪霊に取り憑かれた男は目を覚ますと
そう吐き捨てて帰路にたった
「…まぁ元気そうで良かったな」
男に対する憤りを押さえてサリアの肩を叩く
だがサリアは特に気にする様子はなかった
「それより怪我は大丈夫?」
「ああ…この通り!全然余裕だぜ!」
そう言って身体をバンバン叩くタツキ
体を良く見ると全身の傷が塞がっていた
(魂魄が自己治癒力を強化したんだ…それにしても凄い回復力…)
サリアが不思議そうに考えこんでいると
タツキは糸が切れたようにその場に崩れ落ちた
タツキの体力は限界に達していた
だが少女を心配させまいと痩せ我慢していたことは
サリアにはお見通しだった
倒れそうな体を両手で支え抱きしめると
「…お疲れ様」と呟いた
「…起きろぉ!タツ!遅刻すんぞぉ!」
タツキは聞き慣れた声で目を覚ます
壁掛け時計の長針と短針の位置を確認すると
慌てて布団から飛び出し支度を始めた
いつもと変わらない騒がしい朝に
昨夜のことは夢だったのだ、と
タツキは歯を磨きながらそう思いこんだ
準備を終えて自転車の荷台に飛び乗ると
昨日の夢のことをトオルに話した
鼻で笑うトオルの首根っこを掴み
口喧嘩しながら登校する
いつもと同じ二人の朗らかな青い春は
教室に入ると突如終わりを迎えた
「今日からこの学校に転入することになりました!姫野 サリアです!よろしくお願いします!」
事前に何も連絡も無かった転入生とその可愛らしいルックスに
クラス全体がどよめく中
タツキはその聞き覚えのある声と見覚えのある顔に
激しく動揺していた
「は〜い、じゃあみんな仲良くね…席は…檜葉柱くんの隣が空いてるからそこで…」
担任の教師はそう言うと
一時間目の授業のため教室を後にする
状況を整理できないタツキの隣の席に
謎の転入生が座り喋りかけてくる
「はじめまして!…って事でいい?」
「やっぱりお前…昨日の廃墟の女の子だよな⁈…」
「昨日も言ったけど"お前"じゃなくて"サリア"ね」
「…とにかく!サリア…色々と説明してくれ」
「いいよ…迷惑をかけたお礼に…」
その時、学校のチャイムが鳴った
二人は会話を止め授業の準備をする
周囲からの熱烈な交流にたじろぐサリアの隣で
昨日の出来事について考え込み頭を掻くタツキ
その様子を離れて見ていたトオルは
淡い恋心によるものだと勘違いしてやけにニヤついている
時間はあっという間に過ぎていった
放課後、孤児院に向かうトオルを見送り
"二人きりになれる場所"と指定されたので
タツキは仕方なくサリアを連れて自宅へ向かった
家に着くと同時に玄関からスレンダーで妖艶な女性が飛び出てきた
「あら!おかえり〜♪」
「ただいま…あれ?ツナちゃん仕事は?」
「今からよぉ〜♪…っ⁈…その女の子は⁈…もしかして…か…か…彼女⁈⁈」
「違うわいっ!」
「あらまぁ…いつかこんな日がくるとは思っていたけど…不思議な気持ちねぇ…タっちゃんのことよろしくね!」
玄関から出てきた女性は涙ぐみながら熱い視線でサリアを見つめ両手をぎゅっと掴んだ後
タツキとサリアに手を振り職場へ向かった
「今の…お母さん?」
そのサリアの問いに
「それ以上……孤児の俺を拾って育ててくれた恩人さ…人の話全然聞かないけどな」
やれやれ…と物憂そうにそう答えた
だがタツキの小さくなる背中を見つめる眼差しは
その態度とは裏腹に慈愛と尊敬に満ちていたことを
サリアは感じ取っていた