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序章【青春狂騒編】第四話「目覚め」


自責の念を押し殺して

悪霊に超常の力を放つサリア


「束縛‼︎(ルイコスタ)」


太く長い植物の蔓がコンクリートの床を突き破り悪霊に絡みつく


身動きがとれない悪霊を一瞥し

サリアは慌ててタツキの衣服を脱がし状態を確認する


腹部から胸元にかけてかなり深い傷跡と

床に流れる大量の血

まだ息があることが奇跡に等しく

その奇跡は長く続かないことをサリアは瞬時に理解し、自身の能力を発動し救命措置を始める


(…死なせない‼︎死なせない‼︎‼︎)


サリアはそれ以外は考えなかった


目の前で家族を失ったサリアは

動揺や悲嘆では命は救えないことを重々理解していた






数分間の決死の生命維持活動の後


(止血はできた…あとは本人の自己治癒力を最大限強化する!)


サリアは自身の生命エネルギーをタツキに流し込む

するとタツキの胸に妙な模様が浮かび上がった


(…⁈…これって…封印術式?)


こちらの世界の住人には決してあるはずの無いものを見て動揺しそうになる心を押し殺し冷静に術式を確認するサリア


(見たことない形状…しかも鍵が四つ…四重に組み込まれてるんだ…そしてかなり古い…一つは今にも壊れそう…)


見慣れない封印術式を観察していると

カラン…と空缶が転がる音がした

その瞬間、視線を後ろに向けると

すぐ背後に今にも両手を振り下ろそうとしている悪霊が佇んでいた


(気配を殺してた⁈…しまった!詠唱を省略したから威力が弱かった⁈)


赤い眼を細らせ不敵な笑みを浮かべながら

悪霊がサリアに襲いかかった






その頃タツキは朦朧とする意識の中で

なぜか夢に出てくる少女を思い出していた



『あなたは…たいせつな……だから…』


少女が何か語りかけくるが良く聞き取れない

いつもと同じ夢の内容


タツキは辟易していたが

いつもと違い黒くぼやけていた少女の輪郭が確認できた


目を凝らし良く見ると

少女は小さな小指をタツキに突き出している


(…指切りげんまん?…何か約束をしてるのか?)


徐ろに手を伸ばし少女の指を握った瞬間

ハッキリと涙を流す少女の顔と朧げな声が胸に響く



『あなたは私にとって特別で大切な人…だから必ず…迎えに来てね…』






"ドガッ‼︎‼︎"

衝撃音と共に悪霊が吹っ飛んだ


何が起きたか分からないサリアは咄嗟に治療していたタツキを心配し手元を見るがそこに彼はいなかった


死の淵を彷徨っていたはずの異界の男は全身に生命エネルギーを帯びて今まさに悪霊を殴り飛ばしたのだ


到底理解し難い事実の連続に困惑するサリアだが

何故かその厳しいその背中に

かつて慕っていた兄の面影を感じていた



「…なんじゃコリャ⁈」


その言葉にハッと我に帰るサリアと

身体中から立ち上る湯気の様なものを不思議がるタツキ


「…その力は魂魄アニマ…元来ヒトが持っているタマシイの力よ」


その声に後ろを振り返るタツキは

サリアが無事なことに安堵した

と同時に身体中から湧き上がるエネルギーから

体験したことのない高揚感を感じていた


「言ってることは良く分からんが…今の俺ならば‼︎あの悪霊をブッ飛ばせる気がするぞ‼︎」


サリアは振り返ったタツキの胸に目をやると

封印術式の一部が壊れていることに気がついたが

考えることは後回しにして

何やらタツキに耳打ちをした



「…応ッ‼︎任せろ‼︎」



勢いよく返事をしたタツキを尻目に走り出したサリアだが呼び香の効果は未だ切れておらず悪霊が雄叫びと共にサリアへ襲い掛かろうとする


『グオォォオオ‼︎』


それを遮るようにタツキが悪霊の前に立ち塞がった

「…しつこい奴は嫌われるぞ!」


両手を振り上げた悪霊の脇腹に正拳を見舞う


余りの威力によろめく悪霊に対して間髪入れず

上部へ回し蹴りを放つ


『…ぐぉおぉ…‼︎』


たじろぐ悪霊を見て確かな感触を感じたタツキは

一気に距離を詰めた

だがその瞬間


『ギャアァアィィア‼︎‼︎』


叫びと共に悪霊が膨れあがった

先程の倍以上の巨体から伸びた腕が

周囲の瓦礫、廃棄物と共に接近してきたタツキを振り払う


(…がはッ‼︎)


コンクリートの壁に打ち付けられたタツキの脚には

錆びた鉄筋が突き刺さっていた


(…くそ!…まだか⁈)


身動きの取れないタツキを見て

悪霊はゆっくりと距離を詰める…とそこへ


"パリンッ"


外部から何かが投げ込まれ付近のガラスが割れた

その瞬間タツキはにっこりと笑みを浮かべた



数分前


「私の魂魄アニマ…ええと…体力はもう空っぽに近い…ここにいても足手纏いになる…だから取り憑かれた人を屋外に避難させる…終わったら合図するから」

そう言うとガラスを指差すサリア


「…魂魄アニマとはココロの力…気持ちをしっかりもって!…任せていい?」


「…応ッ‼︎任せろ‼︎」




気合いを入れて脚に刺さった鉄筋を力一杯引っこ抜く

タツキの胆力は並外れていた

(…死ぬほどいてぇ…でも動く‼︎)


悪霊は痛みを堪え呼吸を整えているタツキに

お構い無しに襲いかかる



「…ちゃんと成仏させてやるから…安らかに逝けや」



タツキは空手の有段者であるが

その格闘技術を暫く封印してきた


喧嘩しか取り柄のないどうしようもない自分を信じ見捨てないでいてくれた養母に恩返しをするため

マトモな人間になると誓ったためである


高校入学時に先輩から呼び出されいちゃもんをつけられた時も

クラス中から後ろ指を刺され陰口を言われた時も

中学時代の噂を聞きつけた暴走族に暴行を受けた時も

暴力に訴えることなく堪え我慢してきた


「…南無三ッ‼︎‼︎」


日頃、溜まりに溜まった鬱憤をのせた

右正拳突きは容易に悪霊の腹部を穿った


『…アァアアあぁ…』


力の無い声とともに

悪霊は飛散し消えていった




「あぁ〜…腹減ったぁ〜‼︎」


その声の元へサリアは駆け寄り

「…ありがとう」と声を掛けその場に座り込む




その一部始終を隣のビルの屋上から見ていた

黒いコートを着た怪しい男には気付かぬまま

二人は長い夜の中で暫しの安息を味わった






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