序章【青春狂騒編】第一話「再会」
『あなたは…たいせつな……だから…』
少女が何か語りかけてくるが内容は良く聞き取れない
手を伸ばし少女に触れようとすると目が覚める
先日、誕生日を迎えた檜葉柱 辰樹はいつも変な夢を見ており
以降、彼の寝起きは最悪だった
苛々しながら登校の準備を始めると
外から聞き慣れた声がする
「起きろぉ!タツ!遅刻すんぞぉ!」
幼馴染の百目鬼 徹は早起きが得意だった
「いま準備してんの!テツは早すぎんだよ!」
「バカ!入学早々遅刻する気か⁉︎"マジメな奴"は遅刻しないぞ!」
中学時代は地元では知らない者はいないほど
ヤンチャなタツキだったが
高校へ通うための資金を援助してくれた養母のために更生しようと努力していた
そんな彼の今年の目標が"マジメになること"だったことと
現在の時刻が登校時間ギリギリだったことを
トオルは知っていた
嫌味とも取れるような発破を掛けられたタツキは
不貞腐れながら支度を済ませトオルの自転車の架台に飛び乗る
花風を裂いてペダルを漕ぐトオルの後ろで昨夜見た夢の愚痴をこぼすタツキ
「最近変な夢見んだよなー…」
「ふーん…そりゃあ難儀だな」
「しかも毎日毎日同じ夢…どう思うよ⁈」
「ふーん…そりゃあ呪いだな」
たわいもない会話をしていると
校門が見えてきた
サッと荷台から飛び降りたタツキを
スキンヘッドで巨漢の男が腕を組みながら待ち構えていた
その男が怒号を発する前に
「せんせー‼︎‼︎おはよーございます‼︎‼︎」と声高らかに
清々しい挨拶をして事なきを得た二人はそそくさと教室へ向かった
勉強は苦手だったが今年の目標のため
死に物狂いで授業に取り組んだ
それでもなお貼られた"不良生徒"のレッテルは教員と同級生を敬遠させていた
昼休みは決まって屋上で寝て過ごす
中学時代からの二人の日課は今でも続いていた
放課後、祖父が経営している孤児院に赴くトオルと別れ
独り下校しているとふと夢のことを思い出す
どこか聞き覚えのある夢の中の少女の声は
不思議と耳に残っていた
珍しく物耽ていると
全力で走っている少女とそれを追いかける不審な男を目撃する
(…なんかヤバそうだな)
直感で事件性を感じたタツキは
廃ビルの中へと消えた二人の後を追うことにした
薄汚い廃ビルの中に入ると
急に妙な寒気と嫌悪感に襲われたが
真っ当な正義感を持つタツキは
自身より追われていた少女のことを気にかけていた
(TPG両国暴動以来の嫌な感じがする…あの女の子大丈夫か⁈…早く見つけないと!)
すると…ドカン‼︎と大きな衝撃音がビル全体に鳴り響く
急いて震源に向かうと
腕を押さえて疼くまる先程の少女と遭遇した
これが後に世界の運命と自身の宿命に相対することになる
二人の出会いだった